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元旦

米子はここぞとばかりに舌戦を振るう。


米子∶アンタさぁ、念子を守るって言っているけど本当は念子の細胞たちに長生きしてもらいたいだけでしょ?


血糖値を下げる働きをするホルモンは自分たちだけだから本当に守りたいのはその特権階級だけの保身よ。


だいたい、あの執念深い念子がよ、これくらいのことでくたばったらトロロが裸踊りでもして喜ぶわ。


鍵男はすっかりいじけてしまっている。


素子∶鍵男さん、それでは行き場を失ったあなた達とブドウ糖たちはどうなるんですか?


鍵男∶行き場を失ったブドウ糖は血管をさまようのさ、そうして


念子さんの血管を高血糖に晒して弱らせ最後は悪玉コレステロールなんかとも徒党を組んで動脈硬化症を引き起こすんだ…


米子∶アッ、隣の鍵男が消えたわ、その隣の鍵男も消えたわ。


鍵男∶もうおしまいだ、何もかもおしまいだ。もう僕には時間がない。肝臓が僕たちのコントロール力を恐れて僕たちを消しにかかってるんだよ。


時間内に米子さんを誘導できなかった僕はお払い箱。最後に米子さんを脂肪に変えてあげたかった。けれどももう、時間切れ、


最後に米子さん、自分を健康に出来るのは結局、自分だけ、そしてそれは自分を信じ自分の未来を信じることだと僕は思う。


歳がいくつだからなんて関係ない。明日はもっと素敵な一日にしょうと努力することは誰に知られなくたって、その人を若々しくさせるよ。どうせ生きているのなら格好良く生きたらいい。


そろそろ時間だな、さようならお二人さん…


そう言い残して鍵男もパッチと消えてしまった。


鍵男たちが次々といなくなり血管の中は行き場を失ったブドウ糖等でひしめき合っていた。


素子∶アララ、鍵男、消えちゃて…肝臓とインスリンの縄張り争いみたいなことですかね?でも最後はやっぱり沈黙のドンが勝つと、仁義なき戦い。怖いわぁ。


米子∶素子、目をハートさせてたのにクールね。肝臓は沈黙の臓器と言われているけど色々な仕事をしている消化器のドン。格好付けていた鍵男だけど、あっさり消されたね。


だけど、アタシはウッウッウ…涙が流れるのはなぜ?ズレてたイケメンの最後の言葉に嘘はないと信じたいわ。


さぁ、素子、アンタも元気になったみたいだからアタシたちも消されない内、さっさと逃げましょう。愚図愚図してらんない。なんで正月だっていうのに逃げなけりゃあなんないんだか…因果ねぇ…


こうして米子と素子は血管の旅を続けそら豆村にたどり着いた。


つづく

大変貧乏しております。よろしかったらいくらか下さい。新しい物語の主人公を購入します。最後まで美味しく頂きます!!