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端喰

おしゃべりをしよう、誰が誰だか分からなくなるまで。嘘しか吐けないこの指が、この冬に凍てついて布団にくるまってすべて夢で終わらせたくなるまで。この身体は生きるのには向いていない、この目はいつだって幻を映す、人はそれを気狂いと呼び、あり得ざるものたちを脳の副作用だと嘲笑う。それは別に良いのだ、気が狂っているのは事実である、この世界が何処まで本当であるのか、何処までがこの脳の反作用であるのか、誰も教えてくれる人はいない、証明だって出来ない。出来ないものはそのままで良いのだ。数式を連ねた証明は此処にはない、その美しさを此処にはおけない。ならばそれで良い、気狂いで良い。このまま消え去っていくだけのもので良い。
息を、することを。
忘れてしまうようなことがこの世界にはある、美しいものを追っているとき、この身体はよくそういうことを忘れる、人間でなければ良かったのに。人間でなければこの美しさも甘受出来なかったのに?
一つ、私は名前をつけた。二つ、僕は名前をつけた。三つ、わたしは名前をつけた。四つ、ぼくは、これ以上はもう数えないことにしよう。この名前は終わり、少しおやすみ。宣言してやらねば壊れても尚生き続けようとする愚か者たちよ。今はしばらく、お眠り。熱に浮かされた身体で、吐き気をこらえることも出来ない身体で、そんなことを繰り返す。おやすみ、おやすみ、おやすみ。眠れるものは誰もいないと知りながら。書き出すものが多すぎる、受け取るものに対して、パターンがいくつもいくつも。折り重ならない世界は、先に限界を連れてくる。
このまま、死んでいくのが正しいのか、それが望みなのか、しかし死ぬことすら満足に出来ないのに、一体何を? 世界は切れるケーキのようで、綺麗ではないけれども大凡の六等分を守っている。
お前の否定したものは、お前の記憶に生きている。いつか、お前の喉笛を食いちぎるだろう、それがひどく楽しみだったはずなのに、最早書き出されて記憶から追い出された彼らが、一体どんな顔をしていたのかすら思い出せない。可哀想に、彼らはたった一つだろうが、生きる場所を失った。それだけだ、それだけだろうに。お前だけがお前の証明だ、それはひどく、悲しいことだろうよ、思ってもいないものに理解されるのは屈辱だろうけれど。
名前を、封じて、それだけで。
貴方は、だあれ。
何度も問う、呪文のように。代わる代わるに応える、貴方たちを眠らせるために。一つ目の目が眠っているとき、三つ目の目は起きているぞ。永遠に終わらないループ、夢を見ることすら許されないと思うべきか、それとも夢など見ずとも生きていけると言うべきか。
分からないのに。
貴方は、だあれ。
応えはないものとする、そうとでもしなくては、この身体の限界がまた先に巡ってきては、お前の遠吠えを無視するものに成り果てる。
この世界に、遠吠えを聞かずにいられるものなどいないと言うのに。
夜は繋ぐ。
夜は果てる。
いつかの朝がやってくるまで、まばたきのような眠りを食い荒らす。

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