ピアス

涙が出そうになる理由なんて何処にもない、ないのに雨が降り出すように妙にしんとした気持ちで、涙を流したいような、そんな心地になる。理由なんて何処にもない、いつか昔に突き刺さった棘が、もしかしたら落ちたかもしれないけれど、そんな遠くの魔法が解けるようなもので、今、何かあった訳ではない。
僕らは多面体で、球体にはなれなくて、だからこんな世界でずっと、照射されるべき場所を選んでいる。本当はずっと陰でいたいのに、それも難しいから。心なんてものがささやきあっては、どっちを前にするかで戦争をしている。花束はミサイルで吹き飛ばされて、砂漠になった場所で少女が井戸を見つける。
貴方の、聲が、聞きたい。
雑踏と、捨て置けてしまえば良かった。僕の世界に貴方は必要ないのだと、そう、言ってのけてしまえれば。そういう訳にもいかないから、夏の花火の下、僕らはシャベルを手にしている。線香花火の似つかわしくない、手向けの花を待っている。

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