氷の涙

 褒められないこどもだった。
 頑張ったね、と言われないこどもだった。
 それは今にして思えば両親が悪い、と言い切れるものではなく、僕が〝ある程度〟をこなしてしまうこどもだったからなのだと思う。その〝ある程度〟だって当然努力によって成り立っていたのだけれど、誰もそれを知りはしないから、誰にも言わないこどもだったものだから、すべてが秘されたものだったから、当然褒める理由なんて何処にもなかったのだ。頑張ったと認める理由など何処にもなかったのだ。これを見ている誰かは、もしかしたらそんなことはない、と言うのかもしれない。けれども僕の世界ではそれが当然だった、夏が終われば蝉が死ぬように、そういうものだった。だから恨むことはしない、しないけれどもあの頃の満たされないバケツのようなこどもは一体、何処で死んだのだろうな、と思うことがある。
 この人生は、幾許もの僕の死体で出来ている。満たされなかった僕、心が折れてしまった僕、理由はさまざまだけれど、どれでも要らなくなった僕であることはそうだった。それを踏みつけて歩いている、訳ではない。だって道というのは後戻りするものではないから。僕の後を誰かついてくることもない、これは僕の道だからだ。
 だけれども、思う。
 もしも誰かがこの道を見た時、一体、どれほどに僕のことを気持ち悪く思ってくれるのか、そんなことを。そういう、薄暗い期待を。
 褒められないこどもだった、頑張ったねと言われないこどもだった。そんなこどもの死体が多く敷き詰められた道は、一体どれほどに嫌悪され忌避され厭われるのだろうと、そういう期待がほんの少し、此処にはあるのだ。


作業BGM「夜明け前に飛び乗って」初音ミク(MIMI)

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