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鹿を解体をして食べた話

鹿肉って食べたことがありますか?ジビエはブームではなく、最早定着した感もあるので、食べたことがある人も多いかもしれません。

私は大学生のときに鹿を解体して食べました。我ながら面白い体験だったので、当時のブログ記事を掲載します。

1.なぜ鹿を解体することになったか

私は食への執着が強く、「何でも食べてみたい!」という気持ちが行き過ぎた結果、「自分で解体した肉を食べてみたい!!!」という好奇心がむくむくと湧いてきたからです。

2015年当時、私は京都の大学生だったのですが、調べたところ京都北部の「美山町」で鹿の解体体験ができる「田歌舎」さんを見つけました。

そこで、農学部の友達4人を誘って参加しました。今考えると「鹿の解体しない?!」と突然誘われたうえ、交通費なども含めると1万円くらいの出費になるのに二つ返事で参加してくれた友人達は最高。農学部最高。

※動物の死体や血が苦手な方はお気をつけください※

2.鹿の解体レポート

田歌舎に到着後、簡単な流れを説明してもらい早速解体体験がはじまりました。

①川から鹿を引き揚げる

田歌舎から近くの川に移動しました。二日前に捕まえた鹿が川につけられているので、引き揚げます。早く血抜きをしないと生臭くなってしまうらしく、捕獲してすぐに川につけて血抜きをするのが目的です。

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おっ重い…!二人がかりの重労働。
※「川にさらす」のは伝統的な方法らしいですが、一般に鹿を流通させる際にはこの方法は「衛生的でない」とされています。 

②体内の糞を掻き出す

軽トラの荷台に鹿をのせて解体施設に運んだ後、ホースをお尻の穴から入れて体内の糞を掻き出します。

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糞、めっちゃでてくる。開いたままの黒い目に、なんともいえない気持ちになりました。

③レバーを取り出す

他の臓器を取り除いてから、レバーを取り出します。プルプル。いかにも新鮮。

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④解体しやすいよう、鹿を吊るす

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⑤ナイフで皮を剥いでいく

足の部分の毛を靴下のように残して、それ以外の部分を剥いでいきます。皮を剥いでいくときの手ごたえと、「メリメリ」という音がなんとも生々しい。

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剥き終わりはこんな感じです。全体重をかけて剥ぐので、なかなか重労働…!剥ぎ終わったら、肉についている毛を丁寧に除去していきます(毛がついたままだと出荷先に怒られてしまう)。この工程はかなりの時間を要しました。

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⑥部位ごとに解体していく

切り込みを入れて解体していき、最終的にこのような姿に。

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解体過程で臓物やら足やらが出ますが、田歌舎さんでは犬にあげるそう。足は関節に切り込みを入れてひねると、割と簡単にはずれました。ひねったときの手ごたえと「ぼきっ」という音で、「生き物を解体しているんだなあ」と改めて感じる。

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白い液体はミルク、その近くの臓器は胸。今回解体したのはメスでした。

⑦あばらの肉を削ぐ

ナイフであばらの肉を削いでいきます。自分で捕獲したわけじゃないけれど、生きていた時そのままの状態から解体したためか、「これは少しも無駄にできないぞ」と使命感にも近い気持ちで作業しました。

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ちなみに左の友人は包丁さばきがうまいと褒められていました。料理をする人は解体適性があるようだ…笑

⑧解体終了

一頭の雌鹿と、一頭の小鹿からこれだけのお肉が。ちなみに、鹿の部位で最も高価なのはロースです。

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開始から3時間半。指導員お2人のもと、5人がかりで二頭の鹿を解体しました(重労働なので田歌舎では男性の仕事だそうです)。

3.お待ちかね!のゴハンの時間

手を洗ったり着替えたりしている間に、田歌舎の方が調理してくれました。

鹿もも肉のカツと、十五穀米ご飯と、具だくさん味噌汁と、地物野菜のサラダ。

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鹿もも肉、ぜんっぜん獣くさくない!!さっぱりした味だけれど淡泊というわけではなく、しっかり「肉!!!!」な味です。

(ちなみに京都北部のお米はめちゃくちゃおいしいです。個人的には日本で一番おいしいと思っている。)

味噌汁も凍えた体に染み渡るやさしいお味だし、サラダも野菜がシャキシャキで瑞々しくて最高(サラダに入っていた菊芋、初めて食べましたが歯ごたえに惚れました)。

本当に美味しくて、さきほどの鹿への感謝と幸せをかみしめていたところに…

鹿もも肉のステーキが登場。

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おいしい……………(語彙力の限界)

つい最近まで野山を駆け回っていた鹿のお肉、弾力がすごいです。噛んでも噛んでも味がでてくる、でも噛み切れないとかそういう類の固さじゃない。

にんにくと鹿の肉汁が染み出したタレとの相性も抜群!一人2枚のステーキは、1枚目はお肉だけで堪能して、2枚目はタレをたっぷりつけて食べました。

さらに、あばら肉も登場です。

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あばらは脂が多くて柔らかくて、もも肉とは違った美味しさ!(つい先ほどサーブされた後ろのステーキがほぼ無くなっていることから、いかにおいしいかが分かるでしょう…)

夢中で食べました。ごちそうさまでした。

人生で一番、心から「ごちそうさまでした」と言った気がします。

4.鹿を解体して食べた感想

解体現場を見てから肉を食べられなくなる人もいるそうですが、私は全くそういうことはありませんでした。

普段口にする肉も、当たり前だけれど動物の姿をしていて、動物として生きていたもので、そしてこの一連の作業(殺して、解体して、肉として食べられる状態に加工するまで)を誰かがやってくれているんだなあと。同時に、屠場とそれに関わる人への差別は本当にとんでもないものだと改めて思いました。

陳腐な感想になってしまうのですが、自分で体験してみて「食べ物を粗末にしてはならない」ということがどういうことか、やっと実感を伴って理解できた気がします。

自分で捕獲すればその実感はより強くなりそうだなあ。
私の叔父も、昔鹿の解体を見学したそうなんですが。一番辛かったことは、
罠にかかった鹿がもがきつつ助けを求めるように周囲の人間をきょろきょろと見回していたことだそうです。

普段私たちは、そんな悲しい思いをせずに肉を買ってただただ「おいしいね!」と食べられるようになっています。
生産と消費の現場が離れることで様々な弊害が生じていますが、肉となる動物と、それに関わる仕事への尊厳が失われがちになってしまうこともその一つだと痛感しました。

田歌舎さんの鹿解体体験は、小学校の社会科見学で利用されることも多いそうです。感受性豊かな年齢でこういう経験をしたら、食べものに対する感覚が変わりそうだなあ。小学生でこの体験ができること、とても羨ましい!

※ここまでが2015年時点のブログ記事となります。2020年7月時点では鹿の解体に関するガイドライン等が変更されている可能性もあります※

5.【補足】鹿の解体体験施設の背景(2020年7月追記)

私は上記の解体体験もきっかけとなり、卒業論文は「鹿肉の流通」というテーマで執筆しました。

そもそも、なぜ上記のような鹿の解体体験施設があるのか?という話を簡単します。

2015年当時から、日本各地の農村で鹿の個体数爆増&それに伴い畑を荒らされる被害(いわゆる”獣害”)の急増が問題になっていました。そんなわけで行政や猟師さんたちが鹿の駆除に力を入れる中、「駆除した鹿を肉として流通させよう」という動きが出てきたのです。駆除した鹿を廃棄するにも労力が伴います。ゴミとして捨ててしまうよりも、肉にして販売することで収益源にもなるので、自然な流れですね。

「京都府美山町」は、全国の中でも鹿肉の加工・販売について先進的な地域で、町内の多くのレストランが鹿肉メニューを提供し、地元猟友会の活動も活発です。上記の「田歌舎」は、美山町で狩猟~加工~レストランでの販売まで行っています。

鹿肉の流通は、獣害問題と密接に関係しています。獣害問題は深刻で、ハンターによる個体駆除数は増加していますが、それを上回るスピードで鹿が増えているのです。「オオカミを山に放してはどうか?!」といったカオスアイデアが提案されるくらいの状況です。

私は調査の場から離れて久しく、情報のキャッチアップもできていないためここまでにとどめますが、鹿肉の流通の背景には農村の深刻な問題があります。




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