朝5時の月「冬」2019又は2020
ある冬の朝5時に窓から外を見ると、まだ深い濃紺の空の中に薄い三日月が浮かんでいた。いつもより早い目覚め。いつも通りコーヒーを淹れる。
小学生の時、母は毎朝サイフォンでコーヒーを淹れていた。そのコーヒーとバタートーストが、いつもの朝食だった。そのせいか、コーヒーを淹れるとそこにないバタートーストの香りをセットで認識してしまう。
シャワーを浴びて、昼食用のお弁当を適当に作り身支度をして家を出ると、太陽の光が眩しかった。つい数時間前に目覚めた時には、暗い空に月が浮かんでいたのに。軽い時差ぼけのような感覚を覚える。
地下鉄の駅までの徒歩5分の光景は、毎日ほぼ同じ。
その冬の太陽の光は、とても強くて眩しくて、何かとても良い事のように感じた。何か、とても良い事が起きるような気分にさせてくれた。そのおかげで、日々を何とか乗り切れたような気がする。
途方もない孤独感は、独りでは感じる事がない。外の世界に一歩出た時、たくさんの人の中で、まるで居場所がないように感じてしまう。それは外の世界の人との距離が近づけば近づくほど、強くなる。心が離れていく。
太陽の光は、出口のようだ。持ち帰った孤独を持て余した夜からの夜明け。何でもなかったんだと安心する。昨日の夜に感じた事は、ただの気分だ。何を感じても、それは私自身の出来事に対する解釈なんだろう。
実感のない日々が数カ月続いていた。
笑顔で会話をしても、誰かと一緒に食事をしても、心がついていかなかった。その場から消えてしまいたかった。
仕事が終わり職場を出ると、外はもう暗かった。空には、また三日月が浮かんでいた。
その日は、朝目覚めて月を見て、太陽を見て、夜また月を見た。
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