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西表島、アダナデの滝、その③仲良川と三羽のカンムリワシ

 「二級河川 仲良川起点 左岸」は肉眼では確認出来なかった。にわかに信じがたいが、どうやら私は仲良川にいる。私はここで生まれた歌を、歌詞は違えども、何度も何度も練習してきた。仲良川のマングローブはスラッと背が高くてカッコいい。三線を教えていただいている山内昌也先生もスラッとしていて背が高く、三線を構える姿は優雅で堂々としている。仲良川も川幅がとても広く、同じように堂々たる景観だ。

ペダル式カヤックの操作に慣れた頃、仲良川の上流を正面に、左側の森のてっぺんを見上げると二羽の鳥が大きく翼を広げて旋回しているのが見えた。その翼の正体がカンムリワシだとは、すぐに気づくことができず、西表島ティダカンカンのツアーガイドのKさんが教えてくれた。直後に後頭部に影を感じて、右側の森のてっぺんも見る。同じように一羽のカンムリワシが大きく旋回している。無風の中、どうしてあんなに空を自由につかむ事が出来るのか不思議だ。カンムリワシは全長55cmの大きさで、日本では石垣島や西表島などの八重山地方に約200羽生息しているだけだ。西表島にはそのうちの約80羽ほどが生息しているという。石垣市の「市の鳥」になっていて、八重山民謡「鷲ぬ鳥節」にも歌われている。今回の旅が始まるまでに「鷲ぬ鳥節」をマスターし、八重山の人たちの心をワシづかみにしたかったが、この歌は実は繊細で、八重山の発音がえらく難しく、今のところ悔しいが挫折している。

西表島には5回訪れているが、カンムリワシを見たのはこれが4度目になる。2年前に見たのは西表島の東部、南風見田の浜の手前にある畑の電柱に、あっさりとまっていた。2020年の西表島はなかなかカンムリワシと再会させてくれず、旅の最終日が明日に迫るギリギリのとろこで登場させるというドラマチックな演出、ニクいねぇ。さらに、これほどワシらしく飛んでいる姿は初めてだ。島の大きさに引けを取らない存在感である。大空に大きく翼を広げるカンムリワシと、あまりある余白を十分に使う仲良川の優雅さは「なからた節」の上品なメロディーラインを思い出させた。

 仲良川から支流の川、ヌバン川に千鳥足を卒業したカヌーは進む。

あれっ?「なからた節」の本歌に出てくる田んぼを見ていないっ!。カンムリワシに見とれていて見落としたかっ?!っいや、マングローブが続いていただけだったはずだ。ちょっと焦ってツアーガイドのKさんに声をかける。返事はごく簡単なもので、今まで仲良川で田んぼを見たことがないという。支流に入る直前、伸ばせるだけ首を伸ばして上流をさぐったが、あるはずの景色なかった。つづく

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