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西表島の朝、サガリバナの花火・その⑥完璧でなくて良かった

サガリバナにスマートフォンのカメラを向ける。どのサガリバナにカメラを向けても「あっ、花火、きれいな花火ですねぇ」と、のどかなスマートフォンの声が聞こえて来そうだ。そんなスマートフォンの可愛らしいトンチンカンをからかいながらも、私は嬉しかった。
2020年は東京オリンピックが開催さる影響で地元の花火大会がことごとく中止になった。そして、オリンピック前に前倒しに予定されていた都内の花火会も新型コロナウイルス感染拡大防止のために結局すべて中止だ。毎年の恒例行事があっさり消滅して、今年は花火を見上げない日本の夏がただただ過ぎていったはずだった。
しかし、スマートフォンのカメラは健気にサガリバナを花火と見間違えてくれた。スマートフォンは分かって間違えたフリをしたのか?スマートフォンの粋な優しさだったかもしれない。どちらにしても私は今年も花火にカメラを向ける幸せを感じる事ができたのだ。
いつもの花火と違うところと言えば、この花火が消える瞬間は世の中が明るくなってから、新しい風がサガリバナを撫でるまで来ない。
花火の寿命にしては実に長く、散ったとしても後良川に咲く、消えない水上花火となる。

この瞬間にスマートさを発揮しないトンチンカンなサプライズを演出したスマートフォンが愛おしかった。
西表島の四季を味わうために夏以外の来島を企む事が度々あるが、夏のサガリバナの誘惑に勝てる気がしないのはサガリバナの魔力だ。

今年のサガリバナがすべてこぼれ落ち、アカショウビンが私の知らない異国に向けて長い旅を再開しても、今でも後良川のサガリバナが甘い香りで虫や私を誘惑している気がしてならない。
でも、実はスマートフォンと同じようにトンチンカンな勘違いだと、正気に戻る時もある。
そんな時は、正気に戻っていないフリをしてごまかすのだ。終わり。

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