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西表島の陸活動、ピナイサーラの滝の上と下 その④トイレ大冒険

 ピナイサーラの滝の下を目指してスタートするはずが、思わぬ「トイレ大冒険」の始まりになってしまった。

トレッキングルートから少し外れた林の中にトイレ大冒険の扉はあった。中に入るとテントの真ん中に便座が浮いていた。

浮いていたっ?!

薄暗いテントの中に白く丸いドーナツ型の円盤が浮かび上がっていた。便座は日常的に目にするあの形そのもので、フタはない。よく見ると、便座は細い鉄の棒数本で支えられている。さわやか荘のツアーガイドSちゃんから受け取った簡易トイレ改め、冒険者セットには少し厚めのスーパーのビニール袋の大サイズとポケットティッシュが入っていた。ビニール袋の底にはペットシートが張り付いている。何のこっちゃない、このビニール袋を便座にかぶせて用を足すだけだ。

 座ってみる、テントの隙間から木漏れ日が覗いているのが恥ずかしいが、ちゃんとした便座なので違和感はない。違和感は無いが、私の体にも何も変化がおきない。考えてみれば、私の体は大急ぎでテントに駆け込みたい衝動にはなかったではないか。友人がヒシと冒険者セットを右手に持ち、力強く宣言したのはそれだけの気持ちがあったからだ。友人はピナイサーラの滝の上から下る最中、「トイレってどうすればいいのかな?」と時折、呟いていた。

そうだっ!友人のトイレ冒険はピナイサーラの滝の上から始まっていたんだ!命の重さを実感できるはずである。

 悔しくて、とにかく頑張った。だってこの冒険者セットを無駄にはできない。しかし、これまでのカヌーとトレッキングでたっぷり汗をかいているので、なかなか本領発揮できずに終了。その時にできる最大限を出しきり、私の冒険は終わった。

ペラペラになるまで薄く密閉したジップロックを見て友人が一言。

「薄っすくしたねー、すごく薄いわ」

あたしの冒険の薄さをバカにされたようでちょっとムカつく。「おまえ、本当はトイレ我慢の限界大冒険が無事に終わってにホッとしてんだろ、私のジップロックは目の前のトイレ大冒険というツアーオプションを絶対に無駄にはしない、踏ん張りなんだ」と言いたかった。

 道草大冒険のあとは、目指すピナイサーラの滝の下だ。これまで2回通った道だが、見覚えはない。日々、成長している亜熱帯ジャングルが自ら形を変えながら生きている。カヌーの時に降った雨が大人1人分は大きく成長したシダの葉っぱを見事に輝かせていたので思わず触れてみたり、コケに覆われた岩影のにたたずむ、こだまを妄想したりして歩いた。

歩いていると地面に大自然には似合わない 人の靴あとと思われる数センチの深さの溝があった。ツアーガイドのSちゃんによると西表島の土は粘土質で柔らかい。だから人が多く通る場所で土がむき出しになっていると自然と足跡の溝ができてしまうという。にわか冒険者たちがジャングルに1歩踏み出し続けて出来た溝。新型コロナウイルスの話題で持ちきりの今、県外からの旅行者を受け入れてくれた沖縄、八重山と同じように、このジャングルもずっと、にわか冒険者たちを受け入れてくれていた。つづく。