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みんなの蔵王

山といえば蔵王と答える。蔵王は奥羽山脈の中にあり宮城県と山形県にまたがる蔵王連峰を総称する山だ。山形県上山町にある標高1841mの熊野岳を最高峰とし、蔵王国立公園の一部でもある。

県民は山形県側の蔵王は山形蔵王、宮城県側の蔵王は宮城蔵王、宮城県白石市側の蔵王は白石蔵王などと地域の名前に蔵王をくっ付けては
蔵王がある景色の四季を感じて生活している。

父の影響でスキーを始めた頃は小学生の私にとって山形蔵王でスキーが楽しめるようになれば一人前のスキーヤーだと思っていたし、スノーモンスターの相性で呼ばれる樹氷について発表した小学生5年生の自主学習発表会では先生に褒められた。

宮城蔵王にあるかつて噴火で出来た火山湖であるお釜は夏休みの宿題の絵の題材として申し分のないフォトジェニックで、お釜を目の前に図画板をぶら下げ画用紙に向き合う私の写真が残っているが、それはそれは有名画家さながらの立派な後ろ姿である。

蔵王の麓で作られる蔵王酪農センターの蔵王チーズはクラッカーと共に頬張れば、牛乳の深いコクの中に蔵王に吹くさわやかな初夏で香り付けしたような酸味を感じるクリームチーズである。今やブルーベリーやガーリック風味などたくさんの味が発売されたが、やっぱり定番のバニラ味に落ち着く。
クラッカー推しが多いようだが、私と言えば食パン派である。買ってきたばかりの食パンに贅沢に重ね塗りをして、シトシトさせてかぶりつく。
決してパンを焼いてならない。ちょっと冷たい重ね塗りのクリームチーズが芯のない食パンには似合う。

蔵王にはタケダワイナリーの蔵王スターと命名されたワインもある。赤、白、ロゼと選びたい放題だ。蔵王帰りの土産に、祝い事の贈り物に登場回数は多かった。間違いないというヤツだ。
蔵王にスターと付けちゃうところが蔵王に対する熱い眼差しと期待を感じてしまう。
まだ酒の飲めない少女の頃の私としたら、蔵王スターよりも土産物No.1は加藤物産から出ている樹氷ロマンというお菓子だった。
ウエハースにバニラクリームが挟んである細長い菓子だが、特に寒い日にバニラが冷たくカチカチに固まっている樹氷ロマンを前歯でパキッと折って食べるとおいしさ倍増である。

目で見て、味で楽しんで、体で体感して、蔵王はあらゆる角度から私を刺激してきた。

父が今の家を買う決め手となった理由もまた蔵王である。2階の窓から見えた蔵王が素晴らしく感動したのだそうだ。
2階は私と妹の部屋にあてがわれたから、父が2階にあがることはほとんどないのに、あの窓から蔵王が見えるというだけで人生最大の買い物を後押しした蔵王は魔王だ。

最近は帰省中の朝に必ず2階のすりガラスの窓を開けて蔵王を眺める事が日課になった。
去年の大晦日の朝は見事な雪山の蔵王は、元旦の朝には薄く電線に積もった雪を運んで来たかのような白い風に隠れて裾野すら見せてはくれなかった。
しかし、そこにある蔵王をみんなが知っている。