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見送る扉

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2020年7月の記事一覧

「見送る扉」登場人物

 
■ 登場人物
・アオ(本名は田中蒼):26歳。女性。舞台女優。
・コーイチ(千葉光一郎):26歳、男性。舞台俳優。アオの親友。
・エリ(水本絵里奈):26歳、女性。舞台女優。アオの親友。
・ギーヤン(高良銀也):25歳、男性。舞台俳優。
・横水:37歳。男性。映画プロヂューサー。
・半田:50歳。男性。映画のスポンサー。
・美里(みさと):24歳、女性。大学時代のアオの後輩
・聡:27歳、男性

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「見送る扉」第一場

■ 第一場
冬の日の夜。市民会館内の会議室。シンプルなデザインの長机とパイプ椅子が雑然と並ぶ。
アオ・コーイチ・エリ・ギーヤン・大杉の5人は、演劇台本の読みあわせを終えた直後。全員台本を持っている。台本の内容について考えている。大杉はペットボトルの水で喉を潤す。
アオ 「‥『走れメロス』。誰でも知っている作品を演じるっていうのは、‥やっぱりプレッシャー感じますね。」
大杉 「一度やってみたかったん

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「見送る扉」第ニ場

■ 第二場
その日の深夜、帰宅したエリ。自宅は古いアパート。部屋の整理をしているところに、LINEの着信音。エリは、着信相手を確認して微笑む。そして電話をとる。
聡 「エリ、お疲れ様。‥こないだ言った話、考えてくれたかな?」
   聡はすがるような表情。エリはわざと聡を突き放す表情に。
エリ 「‥2年前だっけ、‥ちょうど今くらいの寒い日、わたしは二時間立ちんぼで待ってて風邪ひきかけてたときに、あ

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「見送る扉」第三場

■第三場
    その翌日の午後。雨。喫茶店の向かい合わせ席で会うアオと横水。テーブルにはコーヒーカップ・チェイサーのコップ2つずつ。映画の内容を説明する資料の紙が何枚か。
    横水は背広。アオもビジネス用の服装。ネックレスをつけている。
店員がコーヒーのおかわりを注ぎに来る。
アオ&横水 「あ、ありがとうございます。」
店員 「ごゆっくり、どうぞ。」
    店員はにっこり笑ってその場を去る

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「見送る扉」第四場

■第四場
横水との会話を終えた帰り道のアオ。周囲はまっくら。傘を差している。
誰かに尾行されているような気がしたアオは、時々後ろを振り返る。不安な表情。尾行主である雄平は、アオが振り返る度に立ち止まり、傘で自分の顔を隠す。アオは自宅近くになると駆け出して自宅に入り、扉のカギをしっかり閉める。雄平は玄関のところまでゆっくり歩み、扉を大きくノック。アオは恐怖を押し殺しながら、玄関に向かう。
アオ 「誰

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「見送る扉」第五場

■第五場
翌週の稽古。まだ開始時間前。室内にはエリ、コーイチ、ギーヤン。個々に稽古の準備(ストレッチや、台本読み等、自由)。そこにアオが入場。
アオ 「おはようございます」
全員 「おはよう!」
エリは敏感にアオの変化を察して、いぶかしむ表情。アオは荷物を置き、身支度を整えて、ストレッチを始めようとする。
エリ 「いつものネックレス、どうしたの?。」
アオ 「え?。」
エリ 「ヴァンドームの、お気

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「見送る扉」第六場

■第六場
6年前。アオ・コーイチが大学の頃。2月。夜。アオとコーイチが公園のベンチに座っている。
アオ 「あーあ、明日はドイツ語のテストかー。詰んだ!。」
コーイチ 「だから、スペイン語選択しとけ、ってあれほど言ったのに。」
アオ 「イッヒ、ハイセ、アオ!(ドイツ語で「私はアオです」の意味)。一年勉強して、これだけしか覚えてないよー。しくしく。」
    アオは、コーイチの肩に頭を乗せ、甘える。コ

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「見送る扉」第七場

■第七場
    その翌日。アオのアパート。午後一時。
    空腹のアオは、冷蔵庫や戸棚の中をゴソゴソと見てまわるが、食べられそうなものはない。思わずため息。
アオ 「‥ま、いいか。ダイエットになってちょうどいい。」
    そこに、スマホの着信音。相手の名前を確認して嬉しい表情に。電話を取る。
アオ 「美里ちゃん。久しぶりねー。元気してる?。」
美里 「先輩、ほんとお久しぶりです。いきなりの電

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「見送る扉」第八場

■第八場
    数日後、エリの自宅。昼。エリは聡と電話している。聡は恐縮した表情。
聡 「本当に、ごめんな。」
エリ 「気にしないでいいって。昔はわたしの出る舞台のチケットも、よく買ってもらったじゃん。お互い様だよ。5枚でいいの?。」
聡 「うん。悪いけど、来週まで入金でよろしく。チケットの予約サイトのURL、送っとくから。そこからじゃないと俺の扱いにならないから、頼むね。」
エリ 「了解。‥久

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「見送る扉」第九場

■第九場
    前場から2週間後の午前。アオの自宅アパート。大家が来て、玄関でアオと話している。
アオ 「本当にすみません。」
大家 「いやね、わたしも驚いてるんですよ。田中さん、家賃滞納したこと、今まで一度もなかったから。何かあったんじゃないかって。」
アオ 「それは大丈夫です。ただお金が‥。すみません、もう少しかかりそうでして‥。」
大家 「そうなの?、大丈夫?。‥まあ田中さんからは敷金も頂

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「見送る扉」第十場

■第十場
    前場と同じ時間帯。ギーヤンとエリが通話中。エリは申しわけない表情
ギーヤン 「そんな謝らなくていいよ。ただちょっと整理させて。‥聡さんから、チケット追加のお願いが来たんだよね。ただ今日中の入金って。枚数は?。」
エリ 「5枚。」
ギーヤン 「そうか。数は大したことないね。‥ただそれにしても今日中とは。‥もうちょっと早く言ってほしかったね。」
エリ 「そこはわたしからも言った。聡も

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「見送る扉」第十一場

■第十一場
    アオと横水との打ち合わせ。豪華なレストランにて。既に食事は終わり、席上にはワイングラス、チェイサーのガラスコップのみ。アオは目いっぱいのおしゃれ(といっても貧乏な身なので装身具、特にネックレスの選定には注意)。唇にはやや濃い色のリップ。横水はスーツ。
横水 「今日、お話しできるところは以上です。他にご質問、確認しておきたい事項はございますか?。」
アオ 「はい、大丈夫です。今回

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「見送る扉」第十二場

■第十二場
    超高級ラブホテル。舞台上の左右に2部屋。それぞれベッドが並んでいる。
    片側の部屋で、聡が通話中。(観客から見て。場所がラブホテルと悟られない工夫が望ましい。冒頭は、聡へのピンスポのみで、通話終了後、全体照明にする等)

聡 「そうか!。エリ、ありがとう!、ホントに助かったよ。‥うん、それは後日で、またな!。」
   聡は電話を切ると、勢いよくベッドに身体を沈める。
聡 

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「見送る扉」第十三場

■第十三場
    前場から翌日の早朝。ギーヤンのアパート。ギーヤンは慌てて、部屋に散乱しているごみを捨て、散らかった物をしまっている。
    エリ登場。暗い表情で扉をノックする。ギーヤンは玄関に走り、覗き穴からエリの顔を確認して、扉をあける。
ギーヤン 「突然来る。って言ったから、びっくりしたよ。汚くて悪いけど、入って。」
    エリは無言でうなずくと、ゆっくり部屋に入り座る。ギーヤンも、エ

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