「見送る扉」第三場

■第三場
    その翌日の午後。雨。喫茶店の向かい合わせ席で会うアオと横水。テーブルにはコーヒーカップ・チェイサーのコップ2つずつ。映画の内容を説明する資料の紙が何枚か。
    横水は背広。アオもビジネス用の服装。ネックレスをつけている。
店員がコーヒーのおかわりを注ぎに来る。
アオ&横水 「あ、ありがとうございます。」
店員 「ごゆっくり、どうぞ。」
    店員はにっこり笑ってその場を去る。横水はハンカチを取り出して汗をふき、チェイサーを飲む。
横水 「‥田中さん、映画の概要は説明のとおりです。‥一気にしゃべっちゃってすみません。わからないところありましたら、なんなりと。」
アオ 「はい、‥あの、いきなりぶしつけな質問で申し訳ないですけど、‥会社畳まれたって聞きましたが?。」
横水 「え?。あ、‥はい。前の会社であるジュエリー・ハーブは、5年前に倒産しました。それからずっと、誰かのお手伝いみたいな仕事を細々やっていたのですが、‥どうしてももう一度映画がやりたいって気持ちはあって。幸い半田会長、‥半田情報システムマネジメントグループの社長職にある半田毅様から資金提供していただくことになりました。‥復帰第一作です。会社名も、ジュエリー・ロバーツと、心機一転いたします。」
アオ 「そうでしたか。‥ご苦労されたのに、また始められるようになったんですね。おめでとうございます。‥でも、そんな大事な復帰作の主演に、どうしてわたしみたいなのを?。」
横水 「あなたが出演されてた舞台、『フェイク』を見させていただきましてね。池袋の劇場で。」
アオ 「‥ああ、はい。わたしは端役でしたけど、よく覚えてらっしゃいますね。」
横水 「男にだまされたあげく、捨てられるシーンがあったでしょ。そのときの、悔しさにあふれた表情。特に目の表現に強烈な印象が‥」 
    店の奥で、コップが割れる激しい音。二人ともそちらに目が行く。
横水 「大丈夫、‥みたいですね。」
アオ 「さっきの店員さんが慌ててますけど、怪我とかないみたいですね。良かった。」
横水 「はい。‥で、その目の表現が、私の映画の主人公のイメージとシンクロしまして‥、考えたあげく、連絡させていただきました。」
アオ 「横水さんみたいな、映画を何本も作られている方が、わたしのような売れない女優の連絡先、よくご存じでしたね。」
横水 「実はね、一度お会いしているはずなんですよ。谷川先生のワークショップで。」
アオ 「え?、あ、はいはい。もう4年くらい前ですけど、確かに。‥よくそんな昔のLINEグループ、残ってましたね。わたし、使わないものはすぐ抜けるようにしてるはずなんですけど。」
横水 「わたしも同じなんですけど、そのグループはたまたま、お互いに残してましたね。‥これはご縁だ!、ってその時確信しました。」
アオは、横水に好感をもって微笑む。横水は熱くなった自分に苦笑。
アオ 「わかりました。前向きに、いや是非やらせて頂きたいです!。今後はどんな感じのスケジュールになりますか?。」
横水 「はい、今日は簡単なプロットのみでしたので、もう少し具体的なストーリーの流れや、監督・脚本家の予定や、撮影スケジュール案等、諸々が見えた段階で、またお話したいなと‥。」

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