「見送る扉」第四場

■第四場
横水との会話を終えた帰り道のアオ。周囲はまっくら。傘を差している。
誰かに尾行されているような気がしたアオは、時々後ろを振り返る。不安な表情。尾行主である雄平は、アオが振り返る度に立ち止まり、傘で自分の顔を隠す。アオは自宅近くになると駆け出して自宅に入り、扉のカギをしっかり閉める。雄平は玄関のところまでゆっくり歩み、扉を大きくノック。アオは恐怖を押し殺しながら、玄関に向かう。
アオ 「誰!?。」
雄平 「‥‥。」
アオ 「‥け、警察、呼んじゃいますからね!。」
雄平 「あ!、アオ、ちゃん!、ん。‥れ、おれ!。‥‥かみだ、ゆ!、へ。ゆうへい!。」
アオ 「‥雄平?。」
アオは、覗き窓越しに雄平の顔を確認すると、扉をあける。雄平は、アオの許可をとらずに、ずかずかと入り、部屋の真ん中でうずくまる。
アオ 「久しぶり、だね。‥高校の文化祭以来かな?。‥どうしたの?。‥‥さっきわたしをつけてたでしょ!?。‥変なことして。普通に声かけてくれればよかったのに。」
雄平は小刻みに震えているだけで、黙っている。アオは暖房のエアコンをつける。
アオ 「ねえ?、一体どうしたっていうの?。今何してるの。どこに住んでるの?。‥‥ねえったら!。」
雄平 「きたせん!。」
アオ 「え?。」
雄平 「きたせ、‥ん、じゅ。きたせんじゅ。」
アオ 「‥北千住。‥意外と近いところ住んでんだ。‥ホットコーヒーでも飲む?。」
アオは、雄平から視線を外して台所に。雄平はよろっと立ち上がると、背後からアオに接近。気配を感じたアオは振り返る。恐怖に顔がゆがむ。
※アオ 「や!!。」
※雄平 「おねがい!。‥‥お願いが、ある。‥お、お願い。」
アオ 「‥わかった。わかったから、‥座って。」
アオは警戒の視線のまま、座るところを指さす。雄平は、ゆっくりとそこに座る。アオは水を入れたコップを手に、雄平の向かいに座り、コップを差し出す。雄平は、ちらりとコップに目をやる。
雄平 「おカネ。‥お金、か、貸してほしい。」
雄平は、コップの水を飲むと少し落ち着くが、アオの顔は見ない。
雄平 「二十万。明日までに、そ、揃えないといけなくて。こ、困ってて。」
アオ 「‥!。‥そんな大金!。‥何に使うの?。」
雄平 「そ、それは!。」
雄平は首を左右に振る。
雄平 「来週までには、か、返すから。‥お願い。」
アオ 「‥弱ったな。」
アオの貯金額のほぼ全額。家賃の支払いに事欠くかもしれない。葛藤するアオ。判断を雄平の表情に求めるが、雄平は目をあわさない。
アオ 「雄平、わたしの目を見てよ。」
    雄平は、ゆっくりと顔をあげてアオを見る。でも、落ち着きがなく、すぐ目をそらしてしまう。アオは、残念そうな表情。
アオ 「雄平、わるいけど、‥‥こ、口座番号!、教えて!。‥明日銀行開いたら、‥すぐ振り込む!、‥から‥。」
アオは言い終えると下を向く。雄平はゆっくり顔を上げ、アオの頭をじっと見る。ポケットから銀行の通帳を出し、アオに差し出す。アオは顔を上げ、口座番号を書きとる。少し悩んで、口座残額を見るが、殆どない。アオは通帳を雄平に差し戻す。
雄平は黙って通帳をポケットに戻すと、紙片を差し出す。
雄平 「俺の、連絡先。‥もう、行かないと。行かないと。」
    雄平はむくりと立ち上がると、お礼も言わずに、ずかずかと玄関に向かう。アオは驚いて追いかけようとするが、雄平はそのまま出て行ってしまう。追うのを諦め、その紙片を見つめるアオ。

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