「見送る扉」第十一場

■第十一場
    アオと横水との打ち合わせ。豪華なレストランにて。既に食事は終わり、席上にはワイングラス、チェイサーのガラスコップのみ。アオは目いっぱいのおしゃれ(といっても貧乏な身なので装身具、特にネックレスの選定には注意)。唇にはやや濃い色のリップ。横水はスーツ。
横水 「今日、お話しできるところは以上です。他にご質問、確認しておきたい事項はございますか?。」
アオ 「はい、大丈夫です。今回もご丁寧なご説明ありがとうございます。‥わたしの出演する映画が、こんなたくさんのところで上映されるなんて。なんかウソみたいで。実感わかないですけど。」
横水 「本当のことですよ。それどころか、これに成功したら、次はもっと大きな興行が打てますよ。ファンになる方もたくさんできて。田中さんは有名女優の仲間入りですよ。」
    そこに半田入場。横水を探している
横水 「あ、半田様!。」
半田 「おお、そこか。遅れてすまん横水。」
半田と呼ばれた男は、テーブルにゆっくり歩み、着席。
横水 「この前話した、この映画の筆頭スポンサーである、半田さんだ。」
アオ 「あ。はじめまして!。今回主演を務めさせていただきます、田中蒼です。」
半田 「どうも、半田です。」
    半田は握手を求め、アオはそれにこたえる。半田は、まじまじとアオを見る。
半田 「いやー、これはかわいらしい女優さんだな。‥いや、びっくりしたな。」
アオ 「そんな、‥ありがとうございます。」
横水 「社長、彼女の写真は、前にお送りしていたはずですが?。」
半田 「馬鹿。実像に触れないと、その美しさはわからんよ。お前だってあれだろ?。舞台で彼女を直接見たときにピンと来たって言ってたじゃないか。同じだよ。」
    半田は快活に笑う。横水も笑う。アオも恥ずかしながら笑う。
アオ 「あの、正直、これだけ規模の大きい映画に出させていただくことも、主演も初めてなんですけど、一生懸命やります。よろしくお願いします。」
半田 「うむ!。君も女優だからわかっているだろうけど、この世界は非常に厳しい。辛いこともあるだろう。だが、俺や横水を信頼して、しっかり頑張っていれば、きっと成功を得られるからな。」
アオ 「はい!。」
半田 「‥それにしても美しいな君は‥。」
半田は顔をアオにぐっと近づける。アオは戸惑いながら、半田を見る。
半田 「うん!、わかった!。君の魅力は目だ。とても綺麗で、まっすぐで、情熱的な目をしている。いや、瞳に吸い込まれそうだよ‥。」
アオ 「‥ありがとうございます。」
横水 「彼女の目はいいですね。彼女を主演にしようと思ったきっかけも‥。」
半田の手が、ふわりとアオの肩に伸びる。しかし袖がガラスコップに触れて転倒。テーブルに水があふれる。アオは思わず立ち上がる。
半田 「おお、すまん。」
横水 「社長、田中さん、大丈夫ですか?」
アオ 「大丈夫です。‥あの、ちょっと濡れちゃったので、化粧室でふいてきます。」
   席を立つアオ。ウェイターの一人が、手早くテーブルをふき、転倒したコップを片付ける。
横水 「社長、濡れませんでしたか?」
半田 「‥、横水、あの子を俺によこせ。」
    横水は、呆然とし、やがて顔がひきつる。
半田 「300万。それでいいだろ。」
横水 「いや社長、それは‥。」
半田 「俺はあの子を気に入った。好きになったんだよ。俺の恋路の邪魔をしないでくれ。‥‥嫌なら映画の話はなしだ。」
    半田は無表情でじっと横水を見る。横水は、追い詰められ、苦しい表情。
半田 「女優のかわりなら、いくらでもあるだろ。‥早くここから出ろ!、彼女が戻ってくるぞ。」
    横水は観念して、その店をあとにする。半田は、何もなかったように、半田が残していったワインを飲む。
アオ 「お待たせしました。‥‥横水さんは?。どこか行かれたんですか?。」
半田 「あいつは、急用で店を出た。もう映画の話は済んだんだろ?。」
アオ 「はい、そうですけど‥。」
半田 「なら、ここからは仕事抜きだ。‥まだ君とは殆ど話ができてないからな。いい酒飲ませるところあるから、行こう。」
    アオは、戸惑いながらも、うなずく。

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