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【読書記録】ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー

おすすめ度 ★★★★★

良かった。
ブレイディみかこさんの本は「他者の靴を履く」以来だけど、「他者の靴を履く」は結構難しくて、頭から湯気が出そうだった。

こちらはエッセイ風のノンフィクションで読みやすく、わかりやすい。楽しく読めて、内容がしっかり染み込んでいく感じ。

タイトルの「ぼく」は著者の息子さんで、イギリスに住む7年生。ちょうどうちの息子と同年代なので、学ぶところが多かった。
過去に読んだ「くもをさがす」や「ヘルシンキ」も、海外の子育てが描かれてて興味深かったのだけど、思春期に片足突っ込んでるボーイの事例はレアだ。


息子さんが良い子すぎる

英国の由緒正しいカトリックの小学校から、人種も貧富の差もごちゃまぜの元底辺中学校に入学した息子「ぼく」の日常を母親視点で描いている。
この子が、まあ立派な子で、純粋で、優しくて、視点がフラットで、意見が鋭くて、言語化能力が高い。
さすがに著者の補足がはいっていると思うんだけど(そもそも彼の言葉は英語だし)、セリフも名言級のものが多くて、突き刺さる。

「僕は人間は人をいじめるのが好きなんじゃないと思う。…罰するのが好きなんだ」

「でも、タイトルとしては良くないよね。すごく、人を仲間外れにするようなタイトル」(EU離脱の分裂を煽る新聞記事を読んで)

多様性がなぜ必要か

人種や貧富がごちゃまぜ、とは「多様性がある」ということだ。
聞こえはいいが、現実には明らかな白人主義者がいたり、貧困層をバカにする子がいたり、問題も多い。

友達とのややこしい問題に戸惑う息子と著者の会話に、頭をがあんと殴られた気がした。

「でも、多様性っていいことなんでしょ?学校でそう教わったけど?」
「うん」
「じゃあ、どうして多様性があるとややこしくなるの」
「多様性ってやつは物事をややこしくするし、喧嘩や衝突が絶えないし、そりゃない方が楽よ」
「楽じゃないものが、どうしていいの?」
「楽ばっかりしていると、無知になるから」

スクール・ポリティクス

多様性なんて、ない方が楽。
だけど楽ばかりしていると、無知になる。

そのとおりだと思う。
でも、こんなことを今の日本の学校は教えられるだろうか。
そもそも大多数が同じ国籍を持ち、貧富の差も(比較的)少ない環境だから、「多様性は大切、みんな違ってみんないい」と道徳でいくら教えても、実際の事例に出会うことは少ない。
さらに「他の子と違うとずるいと言われて、いじめに繋がるから」という理由で「消しゴムは白のみ」「筆箱は無地のみ」みたいに均質化するように指導する。

一見すると、ややこしくなくて均質で平和な日本の学校。
でもそれは、無知を助長する。
差別はたいてい悪意のない人がする」でもあったように、大抵の人は自分の無知に気づかず、排他的になったり、差別したりする。

多様だからこそ問題もえげつない

学校だけではない。
一般にはヨーロッパは進んでいて、日本は遅れているという言説が多いけど、この本を読む限り、イギリスもびっくりするくらい問題だらけだ。
日本より極端でえげつない。

シングルマザー、その後」では、日本のシングルマザーの貧困率の高さが書かれていたが、イギリスのシングルマザー事情も相当しんどいし、風当たりも強い。こどもの相対的貧困の度合いも酷い。公立校の教師が自費でこどもにパンを買ってあげるなど、福祉の機能不全も見える。
メディアの偏りも大きく、日本では大炎上しそうな煽り記事も出る。両極端な主張が存在するから逆にバランスがとれてるのかもしれないけど。

日本のほうがよっぽど波風少なくて、穏やかだと思う。
極端なことを嫌い、均質でありたがる日本らしさがそうさせているのかもしれない。でもそれはやはり、無知につながる。

ヘルシンキ 生活の練習」でも描かれていたけど、結局はどんな国にも良いところと嫌なところがある。
多様性は大切だが、あるだけでより良い社会というわけではない。
むしろ混乱が多すぎて、読んでいてクラクラする。イギリスで暮らせる気がしない。
とはいえ、日本もどんどん複雑になるだろうし、。いつまでも「みんな同じ、みんな仲良し」のぬくぬく均質社会ではいられないはずだ。

なんとなく、それを受け入れられるようにしたいと思ってきたけど、イギリスの日常をリアルに見てしまうと、なかなか簡単じゃないぞと尻込みしてしまうのだった。


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