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【読書記録】沈める滝

おすすめ度 ★★★☆☆

久しぶりに三島由紀夫を読もうと思って、図書館で借りた。
あー三島由紀夫だな、と感じる文体。

私は、小説をあまり読まないし、ドロドロした恋愛モノや自省モノが苦手だなのだが、だいたい三島作品に当てはまる。
どこがファンやねんとガチファンには叱られると思う。「仮面の告白」は暗くてナルシスティックで好きになれないし、「暁の寺」は難しくて挫折した。

ただ、文体が好きなのだ。文体のかっこよさに痺れる。
沈める滝も、それ。

ストーリーは、色恋ベースで明るい話ではない。
とにかくモテまくるけど、無感動な主人公。三島作品でよく出てくる。
品がありつつも色気があり、どこか退廃的な美女。これもよく出てくる。
この二人がくんずほぐれつする、愛と絶望、三島三島するのだけど、私の言語化能力の乏しさゆえ、こういう表現になることをお許しください。
なんや三島三島するて。

文体の魅力が特にわかりやすい部分を選んでみた。
三島作品には、よく主人公に見下される卑俗な人間が出てくる。「沈める滝」では瀬山という男がそれに当たる。
この男が、徹底して主人公に(そして三島由紀夫に)馬鹿にされてる表現が面白い。

悲劇を演じるような見かけを持って生まれなかった男が、悲劇を演じなければならないとは、本当の悲劇である。

辛辣。三島は見かけに厳しい。

あらゆる点から見て、思想的ぬかみそくささの権化の如き人物。

思想的ぬかみそくささ、とは。でもなんか分かる。

瀬山はこの貴重な振る舞いに感激してみせ、酔うより先に酔ったふりをする宴会係の習性を発揮して、殴られたあとに生まれる人間同士の本当の理解を力説したり、自分を「男一匹」と呼んでみたり、「男の友情」を讃美してみたりした。

あー、わかる。酔うより先に酔ったフリ、男の友情語り。ぬかみそくさい思想ってこういうことか!と納得してしまう絶妙なシーン。

こういう細かいところで、言葉選びの妙がすごい。批判や悪口は特にテンポよく出てくるので、思わず言いたくなる。
言いたくなるでしょ、思想的ぬかみそくささの権化。

一般的な三島由紀夫の楽しみ方からは離れているかもしれないが、ようこんな言葉思いつくなーという目線で、一度読んでみてもらいたい。



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