【読書記録】自分の「異常性」に気づかない人たち

おすすめ度 ★★★★☆

大学病院の精神科で働いていた著者が、色んなケースを紹介しながら、「異常性に気づく=病識をもつ」ことの難しさを説明していく。構成はシンプルでよくある形なのだけど、予想以上に面白かった。

もちろんメインは、自分の「異常性」に気づかない人たちの症状や治療方法について。実際のケースが元になっているので、読み応えがあり、リアルだ。タイトルから、ものすごくとんでもない人達が紹介されるのかと思いきや、そうでもなく、一つなにかがズレたら自分だって同じかもしれない、と思うケースもある。
異常とはなにか?自分は果たして「正常」なのか、考えさせられてしまう。余計な煽りや思想がない、淡々とした書き方だけど、続きが気になって一気に読んでしまった。


それ以上に印象に残って、読後もモヤモヤし続けたのは、精神科医の「感情労働」だ。大学病院の医者って、もっとシステマチックで仕組み化されているのかと思ってた。

色んな医者が登場して、若い研修医が途中バーンアウトしてしまったり、面倒事があるとすぐに担当を変える嫌な医者がいたり。ページをたくさん割いてるわけではないが、ドラマ性もあり感情移入しながら読める。

途中、どうしようもなく性格の悪い患者(自己愛性パーソナリティ障害)がでてきて、読んでいてもムカついてくる。
ナルシストで他人を貶しめてばかり、マンガに出てくる嫌なキャラのようなやつ。マンガならいいけど実際の話だし、精神科医は医者として向き合わなきゃいけない。
魔法の治療法があるわけでもなく、医者もマイナス感情をもったり、心がすり減ったりしてしまう。治療の効果がなく強制退院になることもあるし、予想外の方に向かうこともあるし、ぜんぜん違うきっかけで改善することもある。

当たり前だけど、医者だって人間で、悩みながら治療に当たってるんだなと知った。知ったからといって、今のところ私にできることはなにもないんだけど。
どんな仕事にも悩みながら真摯に向き合っている人がいる、そういう人達に感謝しながら生きていこう、と謙虚さを手に入れるくらいか。

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