高等学校「家庭科」の変遷 ~男子が家庭科の代わりに体育を押し付けられていた時代~

高等学校における「家庭科」の授業は、1994年度から男女を問わずすべての生徒において必修の科目として履修されるようになりました。では、それ以前はどうだったのかというと、性差別的な取扱いが長年にわたって続けられていました。具体的に言えば、男子は家庭科を学ぶ権利を奪われており、代わりに体育を押し付けられていました。
ここで変遷をたどってみることにしましょう。
※ なお、中学校の技術・家庭科については、こちら をご覧ください。

1960年(昭和35年)施行の学習指導要領

1963年度~1972年度入学生に適用。
 
・ 「体育」男子9単位 女子7単位 
・ 女子について「家庭一般」4単位 

女子のみ「家庭一般」4単位が必修となっています。 
男子は「体育」が女子より2単位多く設定されています。
つまり、女子が家庭科を履修している時間に、男子は体育と他の科目を履修する前提ということです。 

1970年(昭和45年)施行の学習指導要領 

1973年度~1981年度入学生に適用。

・ 「体育」について,全日制の課程のすべての男子に履修させる単位数は,11単位を下らないようにすること。 
(女子の「体育」は 7 単位であった) 
・ 「家庭一般」は,すべての女子に履修させるものとし,その単位数は,4単位を下らないようにすること。1973年度~1981年度入学生に適用。 

女子のみ「家庭一般」4単位が必修なのは変わらずです。 
男子は「体育」が女子より4単位多く設定されています。 1つ前の指導要領と比べて、男子の「体育」の単位数が増えていることに着目してください。
つまり、女子が家庭科を履修している時間に、男子は体育を履修する前提ということです。

1978年(昭和53年)施行の学習指導要領

1982年度~1993年度入学生に適用。
女子の家庭科と男子の体育についての扱いは、1つ前の指導要領とくらべて全く変化なしです。 
つまり、    

・ 女子は「家庭一般」4単位が必修。
・ 男子は「体育」11単位が必修。 (女子より4単位多い!!

1989年(平成元年)施行の学習指導要領

1994年度入学生から適用。 
男女とも家庭科が必修となりました。また、「体育」の必要単位数の男女差も撤廃されました。
以後は、もちろん男女ともに家庭科は必修科目となっており、すべての高校生が履修しています。生活に必要な知識や技能を学ぶ「家庭科」は、学ぶに値する内容が多く、重要な科目であることは言うまでもないでしょう。

男子から家庭科を学ぶ権利を奪い、代わりに体育を押し付ける "男性差別" が長年続いていた

かつて家庭科が女子のみ必修であったことは、ジェンダー平等の観点から明らかに誤っています。そして、これは女性差別という文脈で批判されて撤廃されるに至ったわけですが、実は男性差別としての側面も持っています。文頭に書いた通り、男子は長らくにわたって家庭科を学ぶ権利を奪われていたということだからです。そして、その家庭科の代わりに中学校では「技術」を学んでいたわけですが、高校では「体育」を押し付けられていたわけです。
なぜ「体育」なのかというところを推測するに、「男は強く・逞しくあれ」という男らしさの押し付けなのでしょう。それ以外には考えられません。男らしさを強硬に押し付ける教育だったというわけです。今までに、このような視点で家庭科履修の男女差を見る論考は無かったのかもしれませんが、ジェンダー平等の問題を考えていくうえでは、必要な視点だと筆者は思います。たいていの場合、男性差別と女性差別は、表裏一体のものです。

余談:筆者のごく私的な意見 

さらに筆者の私見を述べます。以下は、ごく個人的な意見なので、異論は当然あると思います。体育嫌いなひ弱な男子の、1つの考え方として読んでください。 
私は、「体育」という教科はあまり学ぶに値するものだと思いません。少なくとも、「家庭科」や「技術科」と比較したときに、学ぶ意義があるのはどちらなのかというのは明白だと思います。もちろん、生きていくための基礎体力づくりは大切なことだと思いますが、体育授業でなくても各々のトレーニングで行えることです。 
1993年度までの高校では、女子が「家庭科」を履修して実生活に役立つさまざまな知識や技能を学んでいる時間に、男子は「体育」を押し付けられて実りの無い時間を過ごしていたというのが現実でしょう。多くの場合、「体育」の授業は、適当にスポーツをして時間をつぶすだけのものであったり、あるいは、体育会系の教師がさながら軍隊であるかのようなシゴキを繰り広げるような苦痛に満ちたものであったりする印象がどうしても強いです。家庭科を学ぶ機会を奪われた上、そんなどうしようもないものを押し付けられる往時の男子は、大いに災難であったと思います。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?