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日建グループオープン社内報|デザイン人生相談オレに訊け!③

渋谷 篤
日建ハウジングシステム
取締役・設計監理統括部長・lid研究所所長

クールな置き配システム

30代女性からのお悩み相談

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コロナ禍、置き配が一般的になりましたが、何となくとられそう、いたずらされそうと心配です。また、家の前に、置きっぱなしになっている姿も美しくありません。美しく安全に置き配できるデザインはありませんか?

大切な荷物を柔らかく守るシンプルで堅固な仕掛け

「置き配」は「荷物の再配達問題」という社会的課題として広く認識されています。我々に身近な話題としては、「宅配ボックスの容積対象面積からの除外」など、宅配ボックスの設置をし易くするための規制緩和がされつつあります。

しかしながら新築集合住宅はともかく、戸建てや既築集合住宅については、抜本的な解決はあまり存在しないようです。課題解決に向け、大がかりな装置や仕組みを取り入れることは逆に配達員の方の負担を増加することになり、できる限りシンプルで簡単な仕組みが必須であると考えます。

そこで考えたのは『蚊帳』をヒントにカーテンのようなメッシュで緩やかに覆い、「見た目」と「防犯対策」に対応する提案です。このメッシュは足下部分から上に向けてグラデーショナルに粗密が変化したもので、荷物を隠しながらも、一般的に殺風景になりがちな玄関前の空間に、照明と共に新たな風景を生み出す仕掛けとなっています。

配達員は荷物を所定の位置に置いて、カーテンのようにグルっと引いてもらい、引き終えるとロックがかかり荷物を保護します。仮にロックがかかった状態で荷物が床から離れると、床に仕込んだセンサーが機能し警告灯と音で周囲に認識させ、加えて居住者へはスマホに通知することで盗難対策を行います。

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居住空間と外部空間の「境界」の在り方を再考する

しかしながらこの方法も玄関前に「荷物を置く」ということ自体に変化はありません。
「置き配」の問題解決も含め、改めて「玄関の機能」自体を検討してもいいのではないかと考えました。

玄関は人の入り口だけではなく、荷物の授受や、健康的な生活に不可欠な風や光を住戸内に取りこむ重要な空間でありますが、逆に害虫やウイルス等人間の生活から取り除きたいネガティブなものの進入路にもなりかねない空間でもあります。

そこでもう一つ考えたのは、通常時でも感染症流行時でも柔軟に対応できるマルチなバッファー空間としての玄関の提案です。玄関ドア、開閉可能な窓、宅配ボックスと下足入れ、クロゼットなどの収納スペースを一体化し、手洗い・うがいをするための洗面器、スマートミラーを設け、清潔で健康な生活を支えるための空間として機能させます。

そして今回のパンデミックの経験を活かし、居住空間と玄関の境界には日建ハウジングシステムで開発した「ZIZAIKU」 を活用し、カーテンやパネルを天井から吊るすことで居住空間との境界を容易に作り出し、加えて玄関に換気扇を設けることで、まだ見ぬ「新たなパンデミック」に対応する「除菌スペース」として機能させることを意図しています。

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「置き配」の在り方を考えることは、居住空間と外部空間の「境界」の在り方を再度見直す絶好の機会になると考えます。

※この記事は、2021年8月に日建グループの社内報に掲載したものです。


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渋谷 篤
日建ハウジングシステム
取締役・設計監理統括部長・lid研究所所長
2001年、武蔵工業大学(現東京都市大学)大学院修士課程修了後、日建ハウジングシステムに入社。入社以来、民間分譲・賃貸集合住宅や再開発事業の設計監理業務に従事。2016年に新設されたlid研究所(Life Innovative Design Laboratory )の所長を務め、商品開発、建材開発、新規ビジネスの構築など幅広い活動を行っている。グッドデザイン賞、CLTアイディアコンテスト2017国土交通大臣賞、London International Creative Competition Finalist、Design for Asia Bronze Awards、 MIPIM ASIA Silver Award等受賞。一級建築士、CASBEE評価員、日本建築学会会員、日本建築家協会会員、APEC Architect。

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