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エネルギー自立型建築からカーボンニュートラルへ

丹羽 英治
日建設計総合研究所
フェロー

2050年カーボンニュートラル社会実現に向けての取り組み

「エネルギー自立型建築」とZEB
日建設計総合研究所では、2013年10月に、NSRI選書の第1弾として、拙著『エネルギー自立型建築』(工作舎)を刊行しました。「エネルギー自立型建築」とは、徹底した省エネルギーと太陽光等の再生可能エネルギーの積極的な活用によって、建築物のエネルギー消費量をネットでゼロにするメソッドを体系化したものです。本書では、ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)の基本的な考え方を示しています。出版当時は、ちょうど2020東京オリンピック・パラリンピックの開催が決定し、東日本大震災以降の停滞した日本経済の再生と持続可能な都市づくりについての議論が活発になってきた頃でした。

地球温暖化対策の新しい枠組み「パリ協定」 
一方、気候変動問題は年々深刻化し、人間活動に起因した温室効果ガスの排出が原因であることが明確となり、2016年のパリ協定において、「2050年までに温室効果ガスの排出量と吸収量をバランスさせたカーボンニュートラル社会を実現する」ことが提唱されました。この頃より、日建設計総合研究所においても、脱炭素社会の実現を目的とした研究への取り組みが開始されました。

カーボンニュートラル、脱炭素社会実現の提唱
2020年は、COVID-19ウィルスによる感染症の蔓延により、緊急事態宣言が繰り返し発令され、東京オリンピック・パラリンピックも開催が延期になる等、日本経済が打撃を受ける1年となりました。そのような社会情勢の中で退陣した安倍晋三内閣に代わって新たに菅義偉内閣が発足しました。その所信表明演説において、「2050年までに温室効果ガスの排出をゼロ、すなわち、カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指す」ことを宣言しました。さらに、同年12月に経済産業省の「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」において、カーボンニュートラルとグリーン成長戦略との関係が示され、日本はカーボンニュートラル社会の実現に向けて大きく舵を切ることになりました。菅内閣はその後1年で退陣となりましたが、これをきっかけに、カーボンニュートラルに向けた各省庁の動きが活発化しています。

カーボンニュートラルへのアプローチ方法
建築・都市レベルにおけるカーボンニュートラルへのアプローチ方法は、『エネルギー自立型建築』の中でも示したZEBへのアプローチ方法の延長線上で考えることができます。具体的には、下図に示すように、A~Eの5つのステップで表現することができます。このうち、A~Cがエネルギー需要側、Dは主にエネルギー供給側の努力となります。
A:負荷を抑制する(断熱を高める、自然エネルギー利用等)
B:システムを高効率化する(エネルギー効率を高める)
C:オンサイトの再生可能エネルギーを活用する(太陽光発電等)
D:低炭素インフラを利用する(排出原単位を小さくする)
E:樹木等により温室効果ガスを吸収・除去する

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図 カーボンニュートラル実現のアプローチ方法

今後の展望
2021年8月には、経済産業省他の「脱炭素社会に向けた住宅・建築物の省エネ対策等のあり方検討会」において、住宅・建築物の省エネ性能等を高めるための対策強化についての議論が始まりました。国土交通省や環境省においても、様々な施策が展開されており、今後、建築物の省エネルギーと再生可能エネルギー等を利用したZEBの重要性はますます高まってくるものと思われます。日建グループがこれまでに培ってきた環境配慮建築や持続可能な都市づくりを実現するための技術やノウハウが、今まさにカーボンニュートラル社会実現のために求められています。


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丹羽英治
日建設計総合研究所
フェロー
博士(工学)、技術士(衛生工学部門)、一級建築士、設備設計一級建築士、建築設備士




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