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日建グループオープン社内報|デザイン人生相談オレに訊け!⑦

陸鐘驍
日建設計 執行役員 海外事業部門プリンシパル

カンドウトイレ

20代女性からお悩み相談

今後パブリックスペースのトイレは、だれもが使いやすい、多様性に対応したものが求められていくのではないでしょうか。セキュリティを設けていない公共空間、例えば商業施設等では、どのようなデザインが良いでしょうか。

パブリックトイレのセキュリティについてのお題をいただきました。
そういえば、最近海外のSNSでもよく日本の「トウメイトイレ」が話題を呼んでいます。早速帰国休暇を利用して訪ねてみましたが、透ける/透けないというよりも休日で賑わう公園で、人々の視線を浴びながら堂々とトイレへ入るにはかなりの勇気がいりました。白昼の公園で直に個室への出入りを見たり見られたりするというのはやはり誰もが気まずく感じるのではないでしょうか?

今回はパブリックトイレのお題に対して、セキュリティの問題というより、私は人と人のプライバシーの距離感をどうデザインするかという問題として捉え直してみました。

旅の道中で出会った絶景トイレ


パブリックトイレといえば中国雲南で出会った山道沿いの小さなトイレを思い出します。

崖から張り出した一見ごく普通のぼろい便所小屋です。外とは一枚の低い壁で隔てられているだけで、男女分かれているわけではないのに入り口は2つあり、左右どちらからも入ることができます。小屋の中は地面に敷かれた石板に丸い穴が2つ並んでいるだけのオープンな作りですが、中央の細い梁らしきものに持参の布をかければ、パーソナルスペースに早変わりするようです。早速しゃがんで......一旦落ち着いて正面の横長い開口からふっと外を眺めると、一面新緑の畑と遠方の山脈が目に飛び込み、素晴らしい景色に思わず「WOW!」と身が震えました。それに、下からの風も気持ちいい。
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小屋の下には小さな溜池と細い田んぼの畦道。気が向いて立ち上がれば、上から通りすがりの人に軽い挨拶もできるし、何かあったときにはきっと助けてもらえるはずです。用を足しながら美しい景色を楽しみ、さらに回りの人と歓談できるこのトイレは地元の社交場の一つになっているに違いないと思いました。

どこにもありそうな原始的なトイレですが、ここは生理的要求を満たすだけではなく、風、光、緑を呼び込む空間の快適さを最大限に活かし、人と自然、人と人とのユニークな関係をも作り出す場所だと教えてもらいました。

日建設計上海のジェンダーレストイレ実戦


初代ジェンダーレストイレ

配管スペースを利用し、共用通路と段差をつけることによって交差する人の視線を逸らす工夫を凝らしました。また主動線の共用廊下とは高さ約1900のピンナップボードで仕切り、若い設計部員のコミュニケーションを促す装置の一部としました。

2代目ジェンダーレストイレ

女性の多い部署においては、キャビネットと仕切り、同じ回遊動線でも音や出入りなどを配慮した静かな環境を試みました。またドアロックと連動した外部照明は共用部からも少し見えることにして、個室の空き状況などが確認できるようにしました。

3代目ジェンダーレス ビュートイレ

共用ラウンジを増築するときに専用のジェンダーレストイレをあえて最も景観の良い場所にしてみました。新人の女性デザイナーのアイディアで光に彩られた空間演出が来客に強い印象を与えます。
十数年前から上海事務所内はすべてジェンダーレストイレを導入し、増床や改修する度にいろいろ実践してきました。ここでは私が旅で学んだいくつかのコツを紹介しましょう。

答えは、「視線」と「動線」と「涙腺」の三つです。

1、視線

  • メイン通路と個室前のバッファー通路に段差をつけ、縦に対面視線をずらす。

  • 個室のドア枠に鍵と連動する照明をつけて内側の出入りの気配を感じさせる。

2、動線

  • 給湯コーナーや倉庫などとセットにして配置することで、人目を気にせずに入りやすい。

  • 個室への通路に複数の出入り口を設け、IN/OUTのすれ違いが解消できる回遊型とすることで、外部の共用通路はより多くの人が出会う場所となる。

3、涙腺

  • ドキドキ、ワクワク、新しい感動が得られる場所。

  • ちょっとさぼりたい、泣きたいときの第三の場所(サードプレイス)

「ザ・上海」という素晴らしい景色を目下にして、きっとあなたは時と共に変化する都会の空に体が融け込んでいくこの感覚には涙が出るほど感動するはずです。ぜひ体験しに来てください。ただ、たまに窓の清掃員に出会う可能性があるので、外にゴンドラ用のロープが垂れている時はブラインドの準備を忘れずに。


※この記事は、2023年2月に日建グループの社内報に掲載したものです。

陸 鐘驍
執行役員 日建設計(上海)董事長
1994年、東京工業大学大学院を経て、日建設計に入社。現在、日建設計上海CEOも兼務しており、日本と中国で建築設計に携わっている。中国銀行上海ビル(2000)、上海花旗集団大廈(2005)、上海緑地中心(2017)、蘇州中心(2017)は、WAF、MIPIM Asiaなど多くの建築賞を受賞している。また最近では、超高層を含む大規模開発や駅を中心としたTOD開発を日本、中国で手掛けている。東京工業大学非常勤講師、一級建築士、日本建築学会会員。著書「環境建築的前沿」(2009)「駅まち一体開発 TOD46の魅力」(2019)(共著)

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