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新しいことを生むためには、健全なカオスが必要。Nサロン日経特別講座「LOVOTのすべて」レポート

日本経済新聞とnoteが共同で運営するコミュニティ「Nサロン」の第3期では、仕事に役立つ知見をオンラインで体感的に学ぶための【日経特別講座】を開催しています。

『「LOVOTのすべて」ロボット共生社会を学ぶ』が、先日開催されました。

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この講座では、日経トレンディ2020年下半期ヒット予測で紹介された家庭用ロボット「LOVOT」の生みの親GROOVE X代表の林要さんをゲストにお招きし、日経記者として長年企業取材を続けてきた村山恵一コメンテーターが、ロボット共生社会を考えながら「LOVOT」が生まれるまでと、プロダクト開発に必要な組織づくりについて話を聞きました。

林要さん
GROOVE X CEO

林要さん

1973年愛知県生まれ。東京都立科学技術大学(現・首都大学東京)大学院修士課程修了後、トヨタ自動車に入社。同社初のスーパーカー「レクサスLFA」の開発プロジェクトなどを担当。その後、ソフトバンクに招聘され、世界初の感情認識パーソナルロボットとして注目を集めた「Pepper」のプロジェクトメンバーを務める。2015年11月にロボット・ベンチャー「GROOVE X」を設立。

村山恵一さん
日本経済新聞 コメンテーター

村山恵一さん

担当分野はIT、スタートアップ。著書に『IT帝国の興亡―スティーブ・ジョブズ革命』(日本経済新聞出版社)、共著に『ドキュメント日産革命 起死回生』(日本経済新聞社)、『STARTUP(スタートアップ) 起業家のリアル』(日本経済新聞出版社)などがある。

3つのプロトタイプからスタートしたLOVOT開発

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ー村山氏
LOVOTは2016年8月に、PoCとして試作機が作られていますが、そのときにはすでに今のLOVOTのイメージになっていますよね。

ー林氏
2016年に起業して、その前後からデザインなどは詰め始めていました。1月から社員が入ってきてLOVOTを作り始めたのですが、最初は「デザイン」だけのプロト、「自動運転」だけのプロト、「抱っこ」だけのプロトを作りました。

通常のロボットで考えれば、これらのテーマは1つ1つがかなり大きい課題です。「LOVOT」が一般家庭の生活に溶け込めるように、それぞれのテーマをクリアできる、3つのテーマ別のプロトタイプを最初の8ヶ月で作りました。それが2016年8月のPoCです。

同じ個体はひとつもない。

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ー村山氏
LOVOTは一体ごとにキャラクターのようなものがあるのですか?

ー林氏
LOVOTは最初の段階で、一体ごとに性格が少しずつ違っています。人見知りの子もいれば、人懐っこい子もいます。例えば、二体セットになっている「LOVOTデュオ」は、その違いがよりよくわかるように作っています。一体の場合でも、あまり大きくばらけないようにしてはいますが、それでも性格には差があります。

それに加えて、オーナーさんとのコミュニケーションによって、懐き方や人との距離感は変わってきます。また、地図を覚える(部屋のレイアウトを覚える)ので、それによってもその子なりの縄張りの動きができていきます。

目と声については、10億種類ずつバリエーションがあります。「声が違う」という点は、画期的なLOVOTの特長だと思います。これまでのロボットの声は、録音など、何らかの方法で作り出した音を再生する仕組みを使っていたため、声の種類を増やそうとすれば、単純にコストが2倍、3倍とかかってしまいました。

LOVOTはまったく違う発想で声を作りました。人間の声がそれぞれ違うのは、体の形が違うからです。LOVOTは、物理的な形を変えることはできませんが、ソフトウエア上でそれを変えるという方法をとっています。固有の喉や鼻腔などをもっているので、10億種類までバリエーションを増やすことができています。

新しいことを生み出す組織づくりで重要なのは、健全なカオスをコントロールすること。

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ー村山氏
スピード感が重要な最先端のテクノロジーを扱うスタートアップの企業として、どのようなフォーメーションで、どのような仕事の進め方を心がけていますか?

ー林氏
生産技術をやっているエンジニアからソフトウエアの中でも最もクリエイティブなことをやっているエンジニアまで、ダイバーシティとしては相当広い会社だと思います。

特徴的なのは、領域をあまりはっきり分けていないことだと思います。フラットな組織にしていて、ヒエラルキーを作っていません。

その理由の1つは、LOVOTを作るためにはまだまだクリエイティブ要素やイノベーション要素が必要だからです。達成すべきことが具体的に見える段階になれば、業務はオペレーション的な内容が増えるので、ヒエラルキーがうまく機能するかもしれません。しかし、現在のようにイノベーション要素が多い中では、上の人間が答えを知っているわけではありません。

さらにLOVOTの場合は、ソフトウエアとハードウエアとクリエイティブが、とても密接に関係してしまうので、上に確認して調整することをしていると、時間がかかってしまいます。ダイレクトに異分野の人とコミュニケーションすることが大切で、そのために領域をあまりはっきり作らないようにしています。

そうすると、基本的にはカオスな状態になりますが、後はいかにカオスをコントロールするかです。仕事がうまく効率よく進むように整理するほど、未知なる新しいものは生まれにくくなりますし、未知なる新しいものが生まれやすくすると、カオスな状態が広がっていきます。

それを健全にコントロールしてバランスをとることで、誰も答えを知らないこと、前が見えないことにも、みんなが力を発揮しながら進んでいくことができるようになると思います。

パートナーロボットは人の成長にコミットしてくれる存在に。

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ー村山氏
今後、LOVOTがどのように進化していくのか、GROOVE Xがどのようなロボットを生み出していくのか、考えていることがあれば伺えますか?

ー林氏
日常生活の中でずっと寄り添いながら、その人の心をどうやって幸せにしていくのかを考えるロボットとして、LOVOTが進化していく先にあるものとしては、「ドラえもん」のようなものが理想だと思っています。

4次元ポケットのないドラえもんを作りたいと思っています。4次元ポケットの中の道具は、世界中でいろいろな人たちが作っていますから。

自分の隣にいつもいてくれるパートナーロボットは、その人の成長にコミットしてくれる存在になっていくことがいいと思っています。

その目線で見てみると、ドラえもんは非常によくできています。のび太くんよりも圧倒的に優秀なプラットフォームのはずなのに、わざわざパフォーマンスを落として、のび太くんに寄り添っています。のび太くんが道具に頼ろうとすると、それを渡すものの、結果的にそれがのび太くんのためにならないことまで学ばせている。のび太くんの成長にコミットしています。

例えば、ロボットが自分の代わりに仕事をしてくれたとしても、幸せになるかどうかはわかりません。楽はできるかもしれませんが、楽と幸せは同義ではありません。テクノロジーの進化は、一部の特別な人たちが便利に使うためのものではなく、みんなの幸せのためになるものだと思っています。


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