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名前が教えてくれたこと

「僕の名前は、ベーシストのニッキー・シックスという人から取られました」

確か小3だったと思う。国語の時間。
「自分の名前の由来について発表しましょう」という課題が出された。

ニッキー・シックスがどんな人かもわからず、私は親に聞いたままを発表した。

大学時代、バンドサークルで出逢った両親は当時ヘヴィーメタルが好きで、Mötley Crüeというバンドのベーシスト「Nikki Sixx」から取って、子どもの名前は「にき」にすると決めていたそうだ。

ただ、ヘヴィメタに関心のない私からすれば、そのエピソードを聞いたところで特にそれからMötley Crüeを聴くようになったわけでもなく...
友達からは「親の趣味を押し付けられて可哀想だね」と言われることもあった。

とはいっても、私は「にき」という名前が嫌いなわけでもなかった。

2文字で呼びやすいからか、ほとんどの友達は名字ではなく下の名前で呼んでくれた。日本では珍しい名前ということもあって、進路フェアなどで受験先の先生が名前を認知してくれていたこともあった。また海外でもわかりやすい発音なので、英語の先生も「Hey Niki!」とすぐに名前を覚えてくれた。

今まで同じ名前の人に出会ったことはないけれど、大人になってから『テラスハウス』という番組で「にき」という名前の人が出演しているのを見かけた。その人は女性だった。

そっか、自分の名前って男女どちらにも付けられる名前なんだ。

私は身体的性別・性自認いずれも男性のシスジェンダーだけど、もし私がトランスジェンダーであったとしても、名前を変えずに生きられたのかもしれない。性別にとらわれない名前、それだけでもこの名前で良かったなと思えた。

ところで、私の名前は漢字だと「二樹」と書く。
小学生の時、実は「Nikki Sixx」の話だけでなく漢字名についても母が説明してくれたのを思い出す。

その時の言い方、言葉の選び方。
今でも鮮明に覚えている。

いつか、あなたの人生のパートナーを見つけて
二本の樹のように大きく成長していってほしい

母はもう一本の樹について、必ずしも「彼女」や「お嫁さん」という表現をしなかった。「パートナー」という言葉に性別という概念は含まれない。また、その相手は恋人や結婚相手とも限らないだろう。ここでいう二人の関係は「親友」「ソウルメイト」「chosen family」どんな形であってもいいのだと思う。

きっと「自分のパーソナルな部分もさらけ出せるような、お互いを共有し合える関係」それを見つけてほしいと母は願ったのかもしれない。

そんなこと子どもの時は考えもしなかったし、「一人でも生きていける」と強がっていた10代の私にはわからなかった。
けれど、人は一人ではなく誰かと一緒にいるからこそ、より「人間らしく」「自分らしく」いられるのかもしれない。

毎日の生活で感じたり考えたりすることを議論したり、くだらないことで笑い合ったり、本気で感情をぶつけ合ったり、寄り添い合ったり。

受容するだけじゃなくて、与え合う関係。

そんなパートナーが私にも必要だと、今は強く思う。そして不思議なことに、それを教えてくれたのは他でもない私の「名前」だった。

*****

はじまりは、ただ憧れのアーティストだったのかもしれない。産まれてくる子が自由な性を生きられるように、と考えた名前でもないだろうし、漢字名の意味なんてきっと後付けに違いない。

それでもいい。

この名前は私の人生にとって特別で、意味あるものへと変わったから。

たかが名前だけど、されど名前。

与えてくれて、ありがとう。





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