最近の記事

#猛獣ども2

#井上荒野 帯に書かれた 「姦通」していた男女が熊に殺されたーー―。 なんとセンセーショナルな! しかしこの事件は書き出しではあっても物語の始まりでも終わりでもない 夏だけの来荘でなく、別荘地に定住している人は少ない 子どもが独立したあとの高齢者や自由業の人が多い 「神様にえこひいきされてるとしか思えないくらい幸せな」扇田夫妻は若くて妊娠が分かって喜び合っている  仲睦まじさを自他ともに認める夫婦もいるがそれを装っているだけの夫婦もある そして例外なくみんな、自分だけのイ

    • 猛獣ども1

      井上荒野 装丁 大久保伸子 装画 杉本さなえ 春陽堂書店 今回ほど語彙力の足りなさや装丁に関する無知を思い知ったことはない 予約本が届いてからも勿体なくて読めなかった本 意を決して手に取ったがやはりまだ文章は読めない Xで見た画像より遥かにノスタルジックなカバー画 まるで大正時代のトランプでも見ているようだ  抑えた赤色は『赤い蝋燭と人魚』を思い出させる 男女の間にあるのはアダムとイブの林檎だろうか 後ろには鋭い歯を持つ獣たち これだけで胸がいっぱいになる カバーを外

      • オリンピア

        〈この一か月、娘が速やかに逝くことを願っていた〉 母親にそんな願いをさせる程の苦しみの中で、ルビーは再発した白血病に負けてしまった  次のオリンピック選手選考を目的に厳しくも楽しい練習に明け暮れてきた妹 いつも一緒だったかわいい妹、兄ピーターは風に吹かれて舞うルビーの命を見送った この本はピーターが話者となって進んでいく 子ども達の笑い声が響き渡り、見守る両親や祖父母たちの温かく交わされる眼差し…そんな牧歌的とも言える生活に翳りが見えたのは、振り返れば祖母の死が起点かもしれ

        • 年頭にあたって

          #正義の人びと #カミュ #中村まり子訳 カミュの戯曲を初めて読んだ 1905年2月にモスクワで起きたセルゲイ大公襲撃をもとに書かれたものだ 数人の若者が、圧政に苦しむ民衆のために自己を犠牲にして世の中を変えようと計画する 計画の一回目は大公の馬車に子どもが2人乗っていたことから実行されなかった そのことで同志たちの間にある革命への思いの乖離があぶり出される 正義とは何か 殺人は悪か それで民衆は救われるのか 二度目は計画通り実行されたが、実行者は自己の正義を守るために恩赦の

        #猛獣ども2