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「孤独・孤立対策」と 「むづかしことをやさしく やさしいことをふかく  ふかいことをおもしろく」 (井上ひさし)

2021年2月19日、内閣官房にコロナ禍で増加が懸念される孤独・孤立対策担当室が設けられた。看板倒れにならないことを願うばかりだ。このコロナ禍での自粛、低調となっている経済活動下、その後に生じる孤独、孤立問題に対しては、精神科医療の立場では自殺対策はもちろんだが、自殺とうつ病、そして依存症は三位一体である、といっていいだろう。とくにうつ病と依存症との重複障害についての認識、治療・回復援助の術を身に付けている精神科医療従事者は少ない。だから、自殺、うつ病、依存症を共に対応、診療できる精神医療機関はほとんどない、といってもいい。

『ホリプロ本社の玄関には井上ひさしさんの直筆の言葉が掲げられている。「むづかしことをやさしく やさしいことをふかく ふかいことをおもしろく」・・・』

これは日本經濟新聞「私の履歴書」堀 威夫ホリプロダクション会長の2021年2月28日付冒頭の一節、28日だから彼の履歴書、最終回にあたる。なるほど!

むづかしことをやさしく やさしいことをふかく ふかいことをおもしろく」。そう、依存症者の体験談、壺にはまったときは、まさしくそれなんだよね。それはベテラン、新人関係ない。ただ、何時もそんな体験談を聞けるとは限らない。だから、例会、ミーティングには通い続けるのが大切なんだ!

そういったことで、私も40数年ズルズルと、毎週1回、夜間集会なるものを1時間15分続けている。ほんとう、いやでいやで仕方がない。だが、「むづかしことをやさしく やさしいことをふかく ふかいことをおもしろく」を聞けたときは、何だか豊かな気持ちになれる。何故だろう。多分、その答えはわからないまま・・・それでいい!「孤独・孤立対策」とは、そんな環境作りが一番なんだろうが、なかなかそんな「暗黙知」を行政対策に盛り込むのは難しいよね。

以下、「むづかしことをやさしく やさしいことをふかく ふかいことをおもしろく」を語らう場の一例

★夜間集会
(西脇健三郎『一億総活躍時代のメンタルヘルス』.幻冬舎、2017を一部抜粋、改稿)
「夜間集会」とは、西脇病院独白の呼称である。その始まりは40年以上前のことになる。当時、私は長崎大学医学部附属病院の精神神経科に籍を置いており、父が、まだ理事長・院長であった西脇病院には、週に1回非常勤で勤務していた。
それは1976年に国立久里浜療養所で行われたアルコール医療に関する医師研修会への参加直後であった。4月の第1火曜日だったと記憶している。入院中のアルコール依存症の全患者を診察室に集めた。そして、アルコール依存症の患者に、「これから全員同じ部屋で過ごしてもらい、そこで、これからの生き方を一緒に考え、週に1回、私が当直の夜、1時間から一時間半程度みんなで病室に集い、語り合いを行うので参加してほしい」と伝えた。
1回目は、私と6人の患者が参加してのスタートだった。そして幸運なことに、この6人の最初の参加メンバーは退院後も通院して、この夜間集会にもほぼ毎回、引き続き参加してくれた。おかげで、退院したら夜間集会に参加する、というのが患者間での伝言事項となった。
しかしその後、年月が経つ中で精神科疾患の疾病構造の変化に伴い、患者はアルコール依存症者に留まらず、薬物依存症、強迫的ギャンブル、うつ病、摂食障害、時には寛解を維持している統合失調症の患者と、参加者の顔ぶれは多様化し、人数も増えて、毎回50名あまりが参加する大集会になっていった。病室には入りきらなくなり、管理棟の会議室、病棟食堂ホールと転々とすることを余儀なくされた。現在は、十数年前に建てた新館の病棟の一つをストレスケア病棟にして、そのホールで毎週火曜日に開催している。
この病棟は、入院治療空間ではあるが、集会時間内は、他の病棟や外来の患者、他の精神病院受診者、回復施設等の利用者など、皆が自由に出入りできるようにしている。そしてその集会では、言いっぱなし、聞きっぱなしとし、会を進める私も一切助言をしないスタイルで続けている。そのため、この場と時間内にさまざまな当事者グループの情報交換も行われるようになり、さながら毎週1回精神疾患当事者の合同集会が行われているともいえる状況である。
もちろん、外部参加者に参加費を要求することはない。デパートで開催される地方物産展の試食コーナーのイメージで、新患患者、家族には出席を促している。この先入院するかもしれない病棟見学も兼ねており、否認の問題を抱える患者の治療導入、「説得より納得」にも良い効果を与えている。
また、この夜間集会の延長として、いろいろなミーティングが、さまざまな職種が関わって行われるようになっている。そして、当事者グループにも病院の一室を彼らのミーティングの場として、月に複数回提供を続けている。


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