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『だが、情熱はある』を語りたい

※本記事はドラマ『だが、情熱はある』のネタバレを多く含みます。まだ見てない方はブラウザバックしてください。


【『だが、情熱はある』を語りたい】


今ドハマりしているドラマがある。

お笑い芸人・オードリー若林と南海キャンディーズ山里の二人のお笑いユニット「たりないふたり」はいかにして「たりないふたり」になったのか、二人の半生を元に軌跡を描いたドラマ『だが、情熱はある』。

元々二人のファンで、「たりないふたり」も見ていたので、ドラマの製作が決まったと記事で見たときから「一体どんな俳優さんが演じるのだろう」とワクワクしていた。

発表されたのは若林さん役にKing&Princeの髙橋海人さん、山里さん役SixTONESの森本慎太郎さんという、何とジャニーズの二人だった。

二人の事はよく存じておらず、知っていたのはグループ名だけで正直「誰?」と思ってしまった。
なので特に期待も無く不安も無くという感じだった。

そんな気持ちで見始めているからこそ、このドラマに度肝を抜かれ面白さを肌で感じている。

より多くの人に彼らの「情熱」を知って貰いたい。かなり長くなるとは思うがこのドラマについて熱く語りたいと思う。

【凄まじい演技】

1話の冒頭から衝撃が走った。

「たりないふたり」の解散ライブ「明日のたりないふたり」の冒頭からドラマは始まる。「明日の」のセットそのままに同じポーズ、同じ歩き方で二人がマイクの前に立つ。

二人が話始めるともうそこにはKing&Princeの髙橋海人ではなく、SixTONESの森本慎太郎ではなく、オードリーの若林正恭と南海キャンディーズの山里亮太が居た。

「似てる」という凡庸な言葉では足りないほどの憑依。
見た目・喋り方・仕草・細かな表情の作り方まで”モノマネ”ではなくしっかりと”芝居”として落とし込んでいた。
最初の5分を見ただけで「この二人はすごい」と感じた。

そこから2話3話と続く度二人の演技は演技とは呼べないほど自然なものとなっており、だんだん「こっちが本物じゃないか」と錯覚するほど心酔していった。

脇を固める俳優陣の演技も凄まじい。
若林さんの相方である春日俊彰役の戸塚純貴さんはもはや春日さんにしか見えない。誰にでも敬語だったり、何も不安にならず困ることなく無邪気に人生を楽しんでいるあの余裕綽々な感じ、ご本人たちも「すごい」と言わざるを得ないぐらいの自然な芝居に視聴者も「すごい」としか言いようがない。

二人の家族も本当に何十年も一緒に過ごしてきたような自然感に引き込まれる。自分の家族を思い出すような感覚になる。

山里さんの相方であるしずちゃん役の富田望生さんも、しずちゃんの独特なキャラをしっかり掴んでいるしモノマネで終わってない。身長は違うもののそんなことはとうに忘れて見ていた。しずちゃんのかわいらしさと富田さんの愛嬌が見事にマッチしていてなんの違和感も無く見れる。

ゲスト出演的な形で二人にゆかりのある人物が出ているのもファンにとっても嬉しい。
個人的にTAIGAさんが出てるのがなんか嬉しかった。

谷ショー役藤井隆さんも素晴らしい。
モデルが2016年に急逝したあややのモノマネ芸人の前田健さんなだけあって、セリフ一つ一つに重みもあり大事にしている感じ、”ドラマのセリフ”だけで決着していない役者本人の心からの言葉の感じ、モデルの前田健が乗り移った感じが演技に感じられて、ドラマの若林さんと同様に涙を流していた。

【脚色の無い”等身大”なストーリー】

ストーリーは二人が書いたエッセイやラジオやテレビで話した内容を元に半生を描いているだけあって「あの話もやるんだ!」とか「でたwwwこの話www」と嬉しくなるような内容で詰まっている。

僕個人の意見だが自分が今まで見てきた自伝的な映画やドラマは、もちろんエンタメとして成立させるために事実にのっとりつつも面白くなるように脚色している部分が多くあるように見えた。
「実際は違うんですけどね」みたいなコメントを本人が後に雑誌やテレビのインタビューで語っているのを見て残念な気持ちになったことがある。

しかしこのドラマは多少脚色はあるだろうが、ほぼそのまんまな感じがした。というか、脚色を感じさせないドラマ製作陣の調査力や熱意を感じた。
オードリーのラジオで話していたことや山里さんのTwitterでの実況ツイートを見る限り脚色はほぼ無いだろうし、良い意味で決してカッコよく見せようとか良い人に見せようとせず”人生に悩み奔走する二人の若者”の等身大な部分を”たりないふたりの若林と山里”に担わせて正確に描くことによって、「視聴者に嘘をついていないドキュメンタリー」的なドラマになっており惹き込まれる。

第5話で若林さんが春日さんに溜まりに溜まった悩みを打ち明けるシーン。

自分が向かっている方向が合ってるのかも分からないし、そもそも自分がどこに向かっているのかも分からない。
辛いししんどいし惨めで苦しい。恥ずかしい。
すごく嫌だ。
もう辞めた方がいいんじゃないかなって。

第5話若林さんセリフ

このセリフを最前線で活躍しているアイドルが言っているという何とも言えない複雑な心境。

第6話で山里さんがコンビ間のネタの方向性に悩みもがき苦しみ、苦渋の決断で自分がツッコミに回る。そのネタがウケて新人賞まで獲ったが仕事が増えず路上でネタを披露していた時のシーン。なかなか見てもらえないなか、学生が止まり「面白い」と言ってもらえた時に山里さんが言ったセリフ。

やっぱり、南海キャンディーズはしずちゃんだよ。
俺は面白い君の隣にいる人で良い。
天才じゃなくていい

第6話山里さんセリフ

このセリフを主演で、しかもドームを超満員で埋めるトップアイドルが言っているという。

芝居とは言え二人のこのセリフは心打つものがあったし、誰しもが抱く感情だよなと共感できた。
言うのもしんどいし苦しいし悔しいだろうなと。
不器用だけど素直な気持ちが二人の演技を通して伝わった。

救いのないこの気持ちを理解してほしい若林さんと、他人を認め諦めた山里さん。
この二人の心境の吐露に対し相方サイドのセリフも秀逸だった。
なかなかお笑い芸人として売れない状況に春日さんは

どう考えても幸せなんですけど。
だからこれからも頑張りたいんですけど。
不幸じゃないと努力ってできないんですかね。

第5話春日さんセリフ

若林さんと共にお笑いをやり、共に頑張っていく。それのどこが不幸なんだと。それだけで春日さんは幸せなんだと。若林さんは学生時代から面白いって知っているから春日さんはそれを信じてやまない。

天才を諦めた山里さんに対ししずちゃんは

私は山ちゃんのこと
天才やと思ってるよ。

第6話しずちゃんセリフ

山里さんの執念深さや死に物狂いで売れたいという向上心、異常なまでの周囲への嫉妬心、その様々な努力の結晶で出来た”南海キャンディーズ”という功績は間違いなく山里さんが作り上げたことを誰よりも知っていたしずちゃん。

二人の悩みや心境は違うものかもしれないが、お互い魅力的な相方が居て、腐れ縁のような深い絆でつながっているというものは同じだった。

これからこの2組はどんどん活躍していき、今や日本の芸能界には欠かせない存在になっていくのを知っている視聴者はワクワクしかない。

【物語を彩るナレーションと音楽】

ドラマの冒頭水卜アナのナレーションから始まる。

友情物語ではないしサクセスストーリーでもない。
そしてほとんどの人において全く参考にはならない。
だが、情熱はある。

1話の冒頭からその言葉で始まり「あ、言っちゃうんだ」と思った。
だが話数が進むにつれバリバリ共感するし、先ほど語った5話の若林さんと春日さんのやり取りなんて「なんて素敵な友情物語なんだ」と口に出していた。

この水卜アナのナレーションもドラマを語るうえで欠かせない。
賛否両論あるものの、個人的な意見では淡々と読み上げるナレーションは物語がスッと入ってきやすい印象だった。

若林さんと出演している『午前0時の森』で、水卜アナは「二人のドラマなので私は感情をなるべく抑えて話している」と語っていた。

水卜アナといえば「たりないふたり」の大ファンで、二人と共演の多いアナウンサーさんなので感情が乗ってしまうのは必然。
自分がもし同じ立場だったら気持ちが乗り過ぎて空回りする自信がある。
そこをぐっと堪え「二人を際立たせよう」とする姿勢のナレーションは見事に二人を際立たせていた印象がある。
たまに出る辛辣なコメントもクスっと笑えるような内容でドラマの魅力を加速化されている。

音楽も素晴らしい。

T字路sのブルースやフォークソング色のある叙情的なミュージックで、二人の人間臭さや不器用な感じを見事に表し彩っている。
何か物事に打ち込んでいる場面はドラムが際立つ躍動的な音楽、悩み苦しみ何かを吐露している場面はゆったりとしたカントリー系の音楽・・・物語としっかりマッチしている音楽も聴いていて心地良い。

そして何よりエンディングでカッコよく流れる主題歌。
SixTONES「こっから」

これだけじゃやれねぇってわかってる
でもこれしかねぇからこれにかかってる
間違ってる未来でも俺には光ってる

SixTONES「こっから」より一部歌詞抜粋

この歌詞はまさしくドラマの中の二人を表しているように感じる。
何者かになりたくて芸人を目指した山里さん。やりたいことが見つからず、学生時代に1回だけ言われた面白いを信じて芸人を目指した若林さん

芸人の道は険しいのは分かっていても、自分の本気度を注げるのはお笑いしかない。大活躍する自分を夢見てがむしゃらに奔走するドラマの二人にピッタリの歌だと思った。
正直初めてSixTONESの曲を聴いたが、めちゃくちゃカッコよくてつい鼻歌で歌ってしまうほどハマった。

【衝撃の7話、そして最終回まで…】

衝撃の7話。
南海キャンディーズがついにM-1グランプリに出場する内容だった。
南キャンは2004年に1年目でM-1に出場し準優勝という成績を収めている。
その内容を丸々描くということで予告から楽しみにしていた。

衝撃だった。
4分の漫才ほぼカット無しで披露したのだ。
見事なまでの再現度だった。
テンポ、間、言葉の発音や息遣い、漫才時の細かな所作まで完璧に再現されていて本当にすごい。
山里さんの実況ツイートも熱を帯びて絶賛していた。
単なるモノマネじゃない。しっかり漫才として大成されていたし、いつの間にか何の違和感も無くお笑い芸人の漫才として自然と見ていた。
放送後に実際の2004年の漫才を再度見直したが全く一緒だった。

このドラマに対するキャストや製作陣の本気度が強く伝わった印象的な回だった。
色々裏話を聞いているとむつみ荘の部屋にある小物や山里さんが居た寮の雰囲気など細かなデティールまでこだわって製作している製作陣の本気度にすごいとしか言いようがない。

そうしたキャストや製作陣の本気度がドラマの人気をたらしめる理由なのだなと感じた。

若干物語の進み方が遅く感じるときもあったが、それをも凌駕するほどの7話だった。

視聴率が伸びなくとも、SNSでは毎回トレンド1位。同じ日曜日放送の日曜劇場「ラストマン」とドラマ満足度ランキングで1位2位と並んでいる。

これほどまでの人気を維持しながら最終回まで走り抜けるのは至難の業ではあると思うが、僕個人は最終回までしっかり見届けたい。

ここまでのめり込んで見れるドラマは今まで出会ったことが無かった。
ここまで感情移入して見るドラマは初めてだった。
ここまで共感できるドラマは今作だけだった。

自分もとてつもない敗北感に襲われて何をしたいのか、何になりたいのか分からなくなる時がある。
やりたいことが明確にあって目標達成のために空回りするときもある。
でもそれは自分が成長したい、生きたいと実感したいから悩むのであって、決して悪いことではない。
遠回りをしたり後ずさってみたり、紆余曲折を経て得られた経験は後に活かされるとドラマから、二人から学んだ。


このドラマはオードリー若林と南海キャンディーズ山里の二人が悩み、苦しみ、もがきながらも、お笑いという世界にのめり込み、「たりないふたり」として出会いテレビ界に無くてはならない存在になるまでのストーリーである。

確かに全く参考にならない人もいれば刺さる人もいる。

共感できる人もいればできない人もいる。

『だが、情熱はある』ので是非見て頂きたいドラマ。

かなり長くなったが、僕のこのドラマに対する『情熱』が少しでも伝わって頂けると嬉しい。

第8話は若林サイドは小声トーク&ラジオ出演。
山里サイドは映画もみ消し事件が描かれる。

ファン必見のエピソード。楽しみだ。

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