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【ショートショート】ジェリーフィッシュは思考しない

くらげには脳がなく、心臓も血管もない。
人間の身体の作りと比べれば、完全に異なる生き物だ。

脳がないので、良く『クラゲは考えない』と言われるが、脳みそがあれば考える?
あったって特に何も考えてない者も多いじゃないか。

『思う』と『考える』は違う。

日々出逢う出来事を自分の知識や経験をもとに多面的に見てみる。
予測する。予想する。想像する。
そこから『真偽が怪しい』と感じたり、逆に『信じてみよう』となったりする。

それが思考であり哲学だし、特別なものでは一切なく、人間誰しもが哲学者なのだ。


…と、リビングルームの水槽に漂うクラゲに話しかけてみる。

返答は一切ない。

ぷかぷかと水の中を揺蕩うだけだ。
代わりに、水槽の水流ポンプの電源が静かに唸っている。

俺とこの目の前に浮かぶくらげは、とても良い関係だと勝手に思っている。


『考えること』が好きな反面、とても怖い時がある。

つらつらと思考を巡らせていると、時々、胸のあたりがゾッと冷えることがある。
底が何メートルあるのか知らない夜の海を覗きこんだ時のように。

何が怖いって、
『自分以外の他人が何をどう考えているか?』知る由もなく生涯を終えることだ。

俺は自我よりも何よりも『他我』が恐ろしい。

自分の心の中すらよくわからないことも多いのに、自分と同じように人が『考えて』いる。

想像するだけで恐怖が背骨の芯から滲み出す。

わかることがないからだ。

『わからない』って立派すぎるほどホラーである。

それに比べてくらげは良い。鉱石のように思考することがないから。
でも、鉱石よりは自由な感じがする。

だから、俺は自室のくらげに今日も話しかける。

時々「彼(彼女?)は本当に考えていないのか…?」と不安になる時はあるが。

これについて考えるのはもうよそう。

空調の効いたリビングルームは今日も快適だ。

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