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はぐくみ句

絵本『ちいさなみずたまり』
作者まつざわくみ


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子育てって本当に楽しくてやりがいのある大仕事。でもやっぱり大変。何が、というより 「あー時間も体も足りない・・・」 と感じることが多々あります。そんな時は深呼吸をして、着替えや歯磨きを急かしたり、忙しなくおもちゃを片付ける手をほんの少し止めてみる。そして目の前で笑ったり、おしゃべりしたりする子どもたちの表情と声だけに、目と耳を向けて楽しむ。すると自然と心も緩んで、顔も綻ぶものです。1日のうちのたった数分でも、その心持ちで子どもたちとやりとりしていると、忙しい日々で閉じがちな心の目が開くような感覚があります。私はその心の目で見たことを、文章にして物語にまとめているのかもしれません。

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くだらないことで笑い転げたり、真剣にきょうだい喧嘩をして大泣きする姿に、いつも想います。 「あぁ、この人たちは、今だけをいっぱいに生きている。私も昔はそうだったなぁ〜」と。
週末の締め切りまでにアレを提出せねば、来週のプレゼンまでにアレもやらねば・・・大人になった私たちは、少し先の未来へ向けて「今」という時を走らせ過ぎてしまうことがあります。もちろん生活をしてゆく上で、そうした責任感はとても大切。でも気がつくと日々が「せねばやらねば」で溢れた川のように流れてゆく。私も三人の幼い子どもたちの傍らで仕事をしています。時々大きな止められない流れに呑み込まれそうになりますが、やっぱり今は子どもたちを真ん中にした「子育て三昧」な時間を楽しむ、たおやかな水面を大切にしたいなぁと想っています。

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だからと言って、子どもたちとより多くの時間を共にすることが必要とは考えていません。私は子どもたちを幼稚園ではなく保育園へ通わせる決心をした際に、ある年上のアメリカ人の友だちにそのことを報告しました。共働きしながら二人のお子さんを育て上げた、私の母の年齢に近い友人はこう言ってくれました。

 ” It’s not quantity of time with children but quality of time. ” 

つまり 「子どもたちと過ごす時間は、量ではなく質よ」 ということでしょう。私のイメージでは、それは日々の川の流れとは別の、空や緑といった周りの風景をゆっくりと大切に映し出す、澄みきった「ちいさなみずたまり」を自分の中に、そして子どもたちの中に共に持つような気持ちで過ごす時間です。

それは週末の丸一日かもしれないし、平日のほんのひと時かもしれない。時間の使い方は本当に人それぞれです。どこからどこまで、どうやって時間を使えば「子育て三昧」なのかは、よくわかりません。でもやっぱり友人が言うように時間の量ではない気がしています。いつも大切に想っている、ということ。それがお互いに伝わる時間であれば、他愛ないおしゃべりでも、ちょっとした散歩でも、寝る前の短い絵本を読む時間でも・・・悠久の時間軸の中で満喫する「子育て三昧」であり、物理的な時間の長さはあまり関係ないような気がしています。

そんな子育て三昧な「今」という時から湧き出る「想い」のカケラを、ぎゅっと言葉にして残しておきたいと感じる大人は、きっと少なくないでしょう。とは言え、想いを言葉にして書くのは、やはり敷居が高いと感じる人も多いようです。私も、よく周りの人たちに「テーマはどうやって思いつくの?」「子育てして本業がありながらどこに書く時間があるの?」と訊かれることがあります。でもみんなきっと気がついているはずです。小さい子を育む時間は、お話の種に溢れていることに。

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林の古い切り株があっと言う間にコビトの台所になったり、おもちゃの木馬がユニコーンになって虹の橋を跳び越えたり、公園で拾った枝が魔法の杖になったり…こどもたちが遊びながら囁いたり、つぶやいたりする言葉に、横でせかせかするのをほんの少し止めてじっと耳を澄ましてみる。すると大人の私にも、まだまだ夢の世界へ一瞬で羽ばたける力があることに気付かされます。お話としてまとめるのに尻込みしてしまう人も、気軽に俳句を詠む気分で耳を傾けられたら…ほら、お話のアイディアに溢れる小さなつぶやきたちが、一日のあちこちに散らばっています。それらに耳を澄ますと、こどもたちに対してもっと心の目が開く気がするのです。忙しない日々の流れに消えてしまいそうな宝物のあぶくを、そうっと両手で水面からすくい取るような気持ち。

やり方は簡単です。メモした子どもたちの一言一言をちょこっとずつ溜めては眺め、自分が感じたことを五七五のリズムで詠んでみるだけ。短歌よりも、さらに14文字も短い!しゃっちょこばった心構えも、気の利いた季語も必要ないし、字余りだって何のその。それって俳句ではなく川柳なのでは?と言われたら、そうかもしれませんが・・・「はぐくみ句」の方が響きがステキなので気にしませんw (自分の名前が入っているところも気に入っています)

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日常のほんのちょっとの隙間に腰掛けて、子どもたちを育んでいる「今」しか書けない「はぐくみ句」を、一緒に詠んでみませんか?書き溜めたノートは、きっと明日「ガミガミ母ちゃん」にならずに、子どもたちと笑い合う糧になる気がします。そしていつか大きくなった子どもが、つまずいて立ち止まったり、悩みながら子育てをする時にでも、そっと開いて読み返す宝物になったら・・・そんなに嬉しいことってないですよねぇ。でもいっちばん大切なことは、今の自分がやっていて楽しいってこと!

はぐくみ句

「おこったママも
なんのママもすき」
と笑うきみ
「せかいいちは
ママのおりょうり!」
こそばゆい
「りょうほうの
おめめでみてて!」
あーごめん
「はやしって
きもちーよね」と
風に笑む
「ねんねちて」
小さな両手に
寝落ち母
にーに真似
「ぼくが!」と主張
末ムスメ
末っ子が
「おっきくなったらね
いわないで!」
末っ子が
「ちっちゃくなったらね」
としたり顔
寝る前に
「あしたもいいひだ!」
とキミが言う
「早口で
うんちだしたよ!」
と得意顔
「山のぼりは
いっぽずつだね」
大発見!
「まってあげる
ゆっくりな子だよ」
秋のあお虫
「まってたよ!」
小さな奇跡
冬の蝶
おやつ後に
「なんか食べたい」
早すぎです
長女さん
「わたしばっかり!」
頼ってごめん
【くれて】抜け
「作ってありがと」
晩ごはん
【くれて】抜け
「うんでありがと」
泣いちゃうよ
コロナとは?
「しけんなんだよ

かみさまから」
「おっきしたら
ママがパパでヤー!」
泣きの朝


<まつざわくみ プロフィール>
慶應義塾大学環境情報学部を卒業後、出版社勤務を経て都内インターナショナルスクール幼稚園勤務。 傍らで児童文学の執筆を行い、新美南吉童話賞や福音館書店「一日一話コンテスト」受賞。
チェコ人の建築家とペーパークラフトブランド PORIGAMI を運営し、レーザー加工を施した紙作品が海外で受賞。 共著に「びょうぶカードBOOK にっぽん四季おりおり」(青幻舎)がある。
2018年に独立し「小林久実」名義で"kirifuda Japan"を立ち上げ、経営者のアート名刺やディスプレイ等を制作。
絵本『ちいさなみずたまり/Little Puddle』
特設サイトhttps://nijinoehonya.com/pub/little-puddle/

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2021年3月7日 まつざわくみ



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