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2023年 読書会記録(教育関係)

月に1回、オンラインの読書会を行っています。参加メンバーは、教職大学院在学時代の同期メンバーです。小学校教員、高校教員、教育委員会職員で構成されており、勤務地も東京、神奈川、静岡、高知、広島など様々。毎月の読書会は、刺激と癒しの時間です。

今日はこの1年で課題図書として読んできた本について振り返り、学びを整理してみたいと思います。

1月『聞く技術 聞いてもらう技術』東畑開人

この本を読んで、聞き合うことで人は助け合えるんだなぁとしみじみ思いました。心を病んでしまう人が多い昨今、話を聞くことで人を助け、自分がしんどいときには誰かに話を聞いてもらって立ち直る、そんな関係性がいかに大切かということを考えさせられました。
今年最初の読書会。今思えば「生きづらさ」や「閉塞感」について考えるスタートの本だったようにも思います。今もこの本の内容を意識しながら働いています。

2月・3月『なってみる学び 演劇的手法で変わる授業と学校』渡辺貴裕 藤原由香里

お二人の著者に参加していただいた豪華な読書会となりました。2月は読書会メンバーだけで読みのテーマを焦点化し、3月に著者をお迎えしました。
本書は、演劇的手法を授業作りや校内研究の場作りに取り入れた実例とそれを支える考え方が分かりやすく書かれた本です。教室でやってみたくなる実践がたくさん出てきました。
読書会は高校の先生も多いですが、演劇的手法に関する質問や興味関心が思った以上に語られて、おもしろかったです。演劇というと遠い世界の話のようですが、意外と「演じる」とか「なってみる」ということは身近なものであるということに気付かされました。

4月『約束された場所で underground2』村上春樹

年明けに読んで衝撃的だったこの本。読書会の課題図書として提案し、メンバーと共に読み深めました。
この本は、地下鉄サリン事件の被害者へのインタビューをまとめた『アンダーグラウンド』の続編で、地下鉄サリン事件のときにオウム真理教の信者だった人たちにインタビューしてまとめたものです。信者たちが求めたのは、物事を考えることから解放された世界。悪を排除した浄化された世界。生きづらい世の中で、こういった世界を求める人たちの存在が浮き彫りになります。なぜ、こうも簡単に出家し、入信していったのか…。今の世の中でオウム真理教の代替となっているものは何なのか…。最後の河合隼雄と村上春樹の対談も思考が刺激されます。

5月『ハーバードビジネスレビュー6月号(「お客様」から社員を守る)』

教育委員会で働くメンバーからの提案で課題図書になりました。初めて雑誌を課題図書にしました。いつも読書会は近況報告から始まるのですが、理不尽な学校への要求については度々話題になります。そういった課題に対応するための方策をどう考えていけばよいのか、本からヒントを得ようと考えました。(実際のところ、なかなか難しいというのが本音ですが。)
今回の読書会には、読書会メンバーの友人がゲスト参加してくださいました。企業で働く方が入ってくださったことで、私たち教育畑の人とは違う世界の話が見えてよい刺激になりました。お客様を選べない公教育の現場の難しさを痛感するとともに、世の中のために必要な職だということも再認識しました。

6月『人を動かす』D.カーネギー

有名な本で、前から読んでみたかったので課題図書にしました。レビューを書いたので内容についてはこちらを参照してください。↓

7月『殿様の通信簿』磯田道史

英語も国語も、授業で扱う文章は他の教科と関連しています。そういう意味では、言語の習得を目的とする教科を担当する教員こそ、社会のあらゆる出来事に関心をもちアンテナを高くしていなければならないと言えるかもしれません。今回、英語教員の参加者が「社会科の内容を英語で教えなきゃいけない」という事態になり、「せっかく社会科の先生がいるんだから、みんなで歴史の本を読んでみよう」ということになりました。
自分では選ばない本を読めるのも読書会のおもしろいところです。歴史上の人物が、学校で習うのとは違う語り口で紹介される本書。実際の人物に会うことができないからこそ、どう語られてきたのか、どんなイメージが作られてきたのか、批判的に検討することが必要なのだと感じました。歴史に限らず、物事が言語を通して語られることの意味について考える読書会となりました。

8月『発達障害と間違われる子どもたち』成田奈緒子

少子化なのに発達障害の診断がつく子どもが増え続けています。学校で教員をしていても、実感します。なぜなのでしょうか。医師であり発達障害が疑われる子どもたちの支援者である著者が、その実態について書いた本です。
発達障害を疑われる子どもたちへの対応として筆者が主張するのは、睡眠を改善すること。単純なことのようですが、その根拠が本の中で示されています。確かに、生活リズムが乱れている子は多いなぁと感じます。身体がちゃんと休まらないと学校で落ち着いて学習なんてできるわけないですよね。
この読書会にも、参加者の同僚がゲストとして参加してくださいました。教育委員会の特別支援教育の部署で働く方です。情熱をもってお仕事されている様子が伝わり、励まされました。

9月『何のためのテスト 評価で変わる学校と学び』ケネス・J・ガーゲン/シェルト・R・ギル

今年度の読書会で一番読むのが大変だった本。字が小さく文章量が多いし、内容も簡単に理解できるものではないので、夏休み中に読んで9月に読書会をしようということになりました。「関係性」というキーワードはその後の授業作りや児童理解の際にも、役立っています。
レビューはこちら↓

10月『冒険の書 AI時代のアンラーニング』孫泰蔵

夏の大学院訪問でこの本のことが話題になり、じゃあ読んでみようかということになりました。帯にある「好きなことだけしてちゃダメですか?」という問いが物議を醸しました。何年も学校現場にいた私たちからは「そりゃ、ダメに決まってるだろう」という言葉が出てきましたが、「一方で好きなことだけしていればいいじゃない」という主張が世の中に多く出回っている事実について考えさせられました。世の中の変化に目を向けつつ、生きていくために必要な忍耐力をどう育てていけばよいのか。子どもたちを追い詰めてしまうような状況をどう改善すればよいのか。そんな話題になりました。この本が売れる社会的背景について考え、「学校とは何なのか」を掘り下げるきっかけになったように感じました。
この著者の学校や教育学をめぐる探究に沿って、出てくる思想家のことを改めて調べてみたり、タイトルにもある「アンラーン」について検討したりとおもしろい読書会になりました。

11月『いじめとは何か』森田洋司

11月、仕事に疲れ果てて身体の疲れが激しく、初めて読書会を欠席してしまいました。そのため、読書会の詳細は分かりません。
この本が課題図書になった経緯は、やはり学校や教育委員会に寄せられる訴えが起点になっています。いじめの定義についても度々読書会で議論になってきました。

「いじめ」とは、「当該児童生徒が、一定の人間関係のある者から、心理的、物理的な攻撃を受けたことにより、精神的な苦痛を感じているもの。」とする。

文部科学省HPより

いじめられたと思ったら、もうそれはいじめ。そうやって教員は、いじめ件数を数えます。例えば、「AくんはBちゃんが好きでずっと見つめていた。Bちゃんは何で見られているのか分からず嫌な気持ちだった。」研修では、このBちゃんの訴えをいじめ1件として数えるように言われます。でも、「それでいいのかな…」と正直思いました。また、「そうやって捉えることが本当にその子のためになるのかな…」ということにも葛藤します。
学校におけるひどいいじめが報道されるたびに、いじめはいけないと強く思います。いじめを広く認知し、解決の方法を模索するのは大切なことですが、何でも「いじめ」という言葉で捉えてよいものか…難しい問題です。
多様なハラスメントについても議論される昨今、いじめの定義やそれを巡る問題への向き合い方について、今後も考え続けていかなくてはならないと感じています。

12月『不登校・ひきこもりの9割は治せる』杉浦孝宜

今年の読書会では、とにかく「子どもたちのメンタルが心配」という話題が多かったなあと思います。それは、きっとコロナの影響もあるでしょう。今までは、普通にやっていたことも、やるかやらないか子どもに判断を求めることが増えました。また、親も「無理させない」というのが定番になりました。世の中に対する漠然とした不安が皆の心の中に渦巻いているようです。そんな状況では、不登校が増えるのは当然なのかなと思います。不登校を悪いことだと捉えなくてもよいのでは?という声が増えている一方で、それではいけないという人もいます。この本の筆者は、不登校やひきこもりは早いうちに解決すべきという考えをもっています。
筆者は不登校・引きこもりの若者を支援する取り組みを行ってきた経験を基に本書を書き上げました。どのようにして立ち直らせてきたのかについては本書をお読みください。
(私が1点、気になるのは本のタイトルです。「9割」というタイトルが流行っているからつけたのかもしれませんが、この支援団体を利用した人の9割であって、不登校・ひきこもり全体を基にした9割ではありません。この本の内容には学ぶところがたくさんありましたが、あくまでこの団体を利用する一部の不登校・ひきこもり対応の事例として理解するのがよいと感じました。)

終わりに

読書会は、自分の生活のルーティーンの一部になっています。本がなかなか読めない月にも、読書会の課題図書だけは読書するぞ!というモチベーションになりました。そして、月に1回全国で頑張っている仲間たちに会えることが、自分の元気の源にもなっています。

今年度の読書会を終えて、今後も考えていきたいこと

・世の中に渦巻く「生きづらさ」をどう捉え、公教育に携わるものとして何ができるのか。
・学校という場で学ぶのが困難な子どもたちが増えている背景をどう捉えるか。
・何でも学校に解決を求めてくる世の中の状況をどう捉えるか。公教育はどのような方向に向かっていけばよいのか。(教員の働き方やメンタルヘルス、なり手不足の問題も含めて。)

読書会の企画でよかったこと、やってみたいこと

・著者を交えた読書会を来年もやりたい!
・ときどき、違うメンバーにも入ってもらうとよい刺激になる。
・年に1度は、1人では読めないような難しい本にも挑戦する。

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来年も読書会を楽しんでいきたいと思います。長文になりましたが、最後までお付き合いいただき、ありがとうございました!