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「自分を認めてほしい」という気持ち

教員仲間で読書会をしています。今回の課題図書は『人を動かす(文庫版)』(D.カーネギー,2016,創元社)。言わずと知れた名著です。題名やその存在は知っていたものの、読んだことは無かったので、課題図書として選びました。
今日は、この読書会で考えたこと、気づかされたことをまとめてみたいと思います。

書いてあるのは、よく知っていることだった

「読んでみてどうでした?」という問いかけからスタートした読書会。
「どれも大事なことだけど、特に新しいことという感じではないよね。」
「それぞれの章で、エピソードがこれでもか!というくらい出ているけど、言っていることは同じだよね。」
相手の話を聞き、たくさんほめる。とにかく、相手ファーストで接するのが人を動かすことの極意のようです。

私たちは初任者の頃から、子どもの話をよく聞くように、保護者の話をよく聞くように…と散々言われて続けています。また、ほめることの大切さも同じように繰り返し言われてきました。その重要性について、経験からも理解してきたつもりです。

最初30分は、「まあ、わかるけどね。確かにそうだよね。」という感じで本書の内容をなぞっていきました。

自己重要感

話の展開が進んだのは、「自己重要感」の話題で具体例が出てきた辺りでした。「重要感をもたせる」は、人を動かす3原則の2つ目として、割と最初の方で出てきました。

このテーマで話していたとき、4月に異動した2人の先生が、それぞれ感じていることをお話ししてくれました。
「異動した先には、すごく力のある人たちがいて自分がここにいる意味ってなんだろうって思ってしまった。」
「特別支援の担当になった。その分野では知らないことばかりだから、初任のような気持ちで学んでいるけど、自分がこれまで大学院や学級担任の経験で学んできたことが全く生かされていない。興味も持たれていない…。自分はなぜここにいるのだろうと思う。」

このお話は、胸に刺さりました。自分が組織に必要とされているのか不安になる…、自己重要感が満たされていないというしかありません
私も、異動したとき同じことを思いました。去年から、教育委員会で働くようになった読書会メンバーも、これまで教師として積み上げてきた実績をわきに置いて、下っ端として働いています。

私たちは、自分は重要な存在だと認めてほしい。そんな渇望や祈りにも似た欲求があることを再認識しました。

上司と部下の関係

よい上司とは、部下の1人1人の強みを分かって仕事を任せてくれる人。読書会では、この考えで一致しました。
例え、やってもらう仕事がその人のやりたい仕事ではなかったとしても、
「あなたが、○○に力を入れて頑張っていることは知っています。でも、今年は◇◇の担当をしてもらいたいと思っています。◇◇は、あなたの~の力を生かすことができる場だと思うし、この経験は○○にもつながると思うから。」というように、丁寧に説明し、納得してもらうような伝え方が望ましいですよね。

説明もなく、本人のやりたいことや分掌の希望を全く聞くこともなく、数合わせで人事を行うと、部下の自己重要感がどんどん下がり、貢献したい気持ちになることもないでしょう。

いや、実際は、数合わせで人事をしなくてはならないのでしょうけれども、上司・部下の関係性に甘んじて、ただ役割を伝達するのではなく、そこで人と人の信頼関係に意識を向け、誠意を尽くす。このことをD.カーネギーは伝えたかったのではないでしょうか。

上司との良い関係性をつくるために

「いい管理職に当たるかは、運みたいなものだから、良くない管理職が来てしまったら、その時期は我慢するしかないのか。」
これが次の話題になりました。
自分を認めてくれるのはいい上司で、そうでない人は悪い上司。悪い上司に当たったら最低限の仕事をこなすだけ。組織を良くするのは管理職の役目で、私たち下っぱは良くしてもらうのを待っているしかない。

それでは、なんとなく組織としてよろしくないのでは?と思ってしまいます。こういう職場に異動してきた管理職は頭を悩ませることでしょう。

D.カーネギーの理屈でいけば、自分がして欲しいことをまずは自分が相手に対してする必要があります。私たちも管理職に「自己重要感を持ってもらう関わり」をすべきだということです。上司と部下の関係が冷え切ってしまうと、上司は命令するしかなくなります。それしか、部下を動かす手段がないから。

嫌がっている部下に命令するのは、管理職だって嫌に決まっています。いないところで文句を言われてしまうかもしれません。そんな中、管理職がやってほしいことに気づき、進んでやる人がいたらどうでしょうか。その人のことを信頼し、その人を生かしたいと考えるのではないでしょうか。

管理職の顔色を伺いながら自分だけが得をするようにふるまうなら、忖度が蔓延した良くない組織を生み出してしまいます。しかし、管理職・自分・組織全体がWin-Winになる方法を模索することは、極めて重要なことだと私は思いました。

・管理職がどう学校を運営したいのかまず理解しようとする。
・自分にできることは何か、自分は何をしたいのかを整理する。
・今、自分のいる組織がどうなっていて、どういう問題を抱えているのか知る。

そういった現状把握の後、管理職が喜ぶ行動を増やしていくことで、管理職の組織とのかかわり方も変わってくるのではないかなと考えました。

もちろん、そううまくいくケースばかりではないと思いますが、管理職に対する不満を募らせるだけでは、解決は難しいのではないかと思います。

管理職は、何かと批判の対象にされやすいポジションです。それが嫌で、私は管理職になることを避けてきました。だからこそ、部下というポジションで管理職の悪口を言っているだけでは、自分の存在意義を見失ってしまいます。ちゃんと、自分のポジションで管理職に協力していかなくては、良い組織、良い社会には貢献できないと思いました。

管理職も私たちと同じ「人」です。役職的には認められたポジションかも知れませんが、本当に認められているかは別問題です。管理職だって職場の人たちに認められ、良好な関係性の中で、仕事がしたいはずなのです。

自分を認めて欲しいのならば、まずは自分が周りの人たちを認めることから始めるべき。読書会を通して、この本からそんなメッセージを受け取りました。

言うは易く行うは難し

読書会のまとめとして出たのは「言うは易し、行うは難し」ということです。褒めてもらうのは、みんな好き。でも、人を褒めるのは難しい。褒められても、「え…、そこを褒めるの?」という内容では、納得しないものです。(まあ、怒られるよりはマシですが、この人何を見ているんだろうと思ってしまいますよね。)

褒めるということは、その人をよく知らなくてはできません。その人が頑張っていること、大事にしていることを見極めて、そこを褒めなくては伝わりません。だからこそ、対話が必要だし「誠実な関心を寄せる」(P.72)ことも必要です。

この著者は、きっと人が好きだったのでしょう。「人を動かす」と言うタイトル、そして内容全般を見て、なんとなく最初は、テクニックとして「人を褒めること」や「話を聴くこと」が紹介されているような印象を受けました。具体例が、いかにもテクニック的に紹介されているものもあり、「人を動かす小手先の技術として扱うのはどうだろう…」という違和感をもちながら、読んでいました。

でも、実際は違ったんだろうと思います。ただ、人を口先だけで褒めている人には誰もついていきません。相手に関心をもち、尊重し、良さを見出し、期待する。そんな姿勢が染み付いていたのではないかと思いました。

嫌だなと思う相手、一筋縄ではいかない相手の良さを見つけるのは難しい。でも、自分から相手を退けてしまうのではなく、理解しようとする姿勢をもつことが、長い目で見たときに「人を動かす」ことにつながるのだと感じました。

最後までお読みいただきありがとうございました。
久しぶりに読書記録を書きました。インプット・アウトプットを大切にしていきたいです。