見出し画像

25_ミステリ参考作品

 前の記事でミステリシナリオの作り方について書きましたので、私が参考にしている作品を紹介します。前に書いた忍者篇とは異なり、1回の記事で一括して紹介します。
 事件の真相を探り出し解決する、いわゆる「ミステリシナリオ」というパターンのTRPGシナリオがあります。GMはミステリ小説や警察ドラマ、時代劇を参考にシナリオを作ることができます。しかし、プレイヤーがミステリを読んだり、ドラマを見ているとは限りません。誰もが明智小五郎や榎木津礼二郎、鳥居勘三郎警部、榊マリコ研究員、宗像伝奇教授、上田次郎教授、湯川学教授、左翔太郎&フィリップ、杉下右京警部のように事件を解決できるわけではありません。その前提を知っていながらも、探索者ロールプレイを行うにあたって、探偵物語のストーリーの引き出しを増やして欲しいと思います。そこで、ミステリ参考作品を紹介します。彼らのように活躍できるかは、プレイヤー、GM、そしてシナリオ次第です。

◆ドラマ

『科捜研の女』(1999 -)
 京都府警科学捜査研究所に所属する主人公の榊マリコ研究員が「科学は人の幸せのためにある」をモットーに、科学捜査で事件解決に尽力します。刑事の地道な捜査と科学捜査での証拠集めとのチームワークはTRPG的です。ときどき一歩先の技術が使われることもありますが、指紋認証、画像解析、DNA鑑定、化学分析など、現実の科学捜査技術を駆使しての調査が見どころです。ドラマの研究所セットには、本物の分析装置が使用されているそうです。ドラマでは研究員が容疑者と直接話をするなど刑事まがいの捜査まで行なうこともありますが、研究員は警察官ではないので捜査権限を持ちません。もっとも『クトゥルフの呼び声』などTRPGで遊ぶ時には拡大解釈も許容されるでしょう。リアル警察関係者の後輩によると、研究員でも逮捕術の訓練を受けるそうで、運動技能は苦手と言っていました。
1999年に木曜夜8時の「木曜ミステリー」枠で放送が始まったときには、20年以上の長期シリーズになるとは想像していませんでした。2021年9月には映画化されます。この「木曜ミステリー」枠は、他のドラマもミステリ創作の参考になります。

『トリック』(2000 - 2014)
 日本科学技術大学の物理学教授(初期は助教授)と売れない手品師が組んで、超常現象に見せかけたトリックを暴いていきます。騙され易いがポシビリティ思考と肉体能力の高い上田次郎教授と、ハッタリと奇術知識で謎を解く美人手品師の山田奈緒子は名コンビ。ときどき犯人逮捕の手柄だけ持っていく矢部謙三刑事もコミカルに場を和ませまてくれます。クライマックスで「お前たちのやっていることは全部お見通しだ」と威勢のいい決め台詞で敵を追いつめます。しかし、犯人の自殺で終わるエピソードや、新興宗教で仮の救いを得ていた民衆が取り残されるエピソードもあり、やや苦いエンディングが描かれることもあります。初期TVシリーズは携帯電話の普及していない時代性を感じさせます。映画が4作品作られてシリーズは完結しました。シリーズを通して、超常能力が存在しているのかいないのか曖昧に描かれている点も面白いです。

『ガリレオ』(2007、2013)
 原作は東野圭吾の短編小説『探偵ガリレオ』『予知夢』など。主人公は帝都大学理工学部の准教授、湯川学(福山雅治)。明晰な頭脳を持ち、超常現象と思えるトリックの謎を科学知識と論理的思考と検証実験で解いていきます。相棒となるのは女刑事の内海薫(柴咲コウ)。協力を渋る湯川学の知的好奇心を刺激し、事件解明に担ぎ出します。だが刑事も決して無能ではありません。湯川学はあくまでトリックの謎(ハウダニット)を解くだけで、事件の背後関係を調査して解決するのは刑事の役割です。調査の役割分担と、渋るキャラクタープレイをしながら役割をきちんと果たす積極的な湯川学の姿勢を参考にして、TRPGでメリハリあるロールプレイをしてみたいです。
 小説からドラマ化されるにあたって、トリック以外は犯人と動機をがらっと変更したエピソードもあります。その翻案の手法はシナリオ作成の参考になります。

『必殺!仕事人』シリーズ
 時代劇はミステリシナリオの定番と言えます。なかでも必殺シリーズは、事件発生、被害者遺族からの依頼、犯人探しと裏付け調査、暗殺、というTRPGに似たシナリオ構造で物語が進行していきます。チーム内での役割分担や、NPCと1話だけの人間関係などもTRPGの参考になります。時代劇ゆえに、物語はそのままで別の世界観に翻訳すれば、それだけでシナリオの骨子が準備できるという使い方もできます。

『仮面ライダーダブル』
正統派の探偵物語。依頼人が探偵事務所を訪れて事件解決を依頼し、頭脳派と行動派の2人の探偵が調査を開始します。個性的な4人の情報屋から情報を得たり、警察と協力したりして操作を進めていき。クライマックスで犯人と対決します。しかし、2話構成なので、1話目は意外な展開に翻弄されて、2話目で逆転することもしばしば。続編を描いた漫画『風都探偵』が2022年にアニメ化されるようです。

『仮面ライダークウガ』
 変身ヒーローが警察と協力して事件解決にあたる姿を描いた珍しい作品。敵怪人(グロンギ)は一定のゲームの法則にしたがって大量殺人を行なっており、刑事は行動パターンを調べます。そして、予測地点で網を張って仮面ライダーが怪人と戦います。警察庁の研究機関、科学警察研究所が専用バイクや銃弾の開発を行なったり、仮面ライダーの診断を行なったりしていました。刑事が尾行時に携帯電話の着信音を鳴らすというミスも、携帯電話普及前の不慣れな点を描いていました。

◆映画

『チーム・バチスタの栄光』
「このミステリーがすごい」大賞に選ばれた小説の映画化。コミック版も存在します。手術失敗に対する死因調査で、殺人か否か不明な点から調査が始まります。攻めと受けの情報収集や死亡時画像診断(Ai)が調査手法として描かれており、ミステリのプレイの参考になります。不用意な聞き方をすれば、相手に殴られてしまうということも。Aiに興味がある人には講談社ブルーバックス『死因不明社会』もオススメ。

映画『八つ墓村』『犬神家の一族』
横溝正史の小説の映画化。それぞれ三度映画化され、何回もドラマ化されています。昭和20年代の田舎の村を舞台に、遺産相続に絡んだ連続殺人事件が起こります。登場する探偵は金田一耕助。だが、名探偵というより狂言回しに近い。真相は明らかになりますが、気付くのが遅すぎて悲劇を回避できないこともあります。金田一が「しまった!」と叫ぶ場面が印象的です。不毛な解決は、TRPGシナリオでは真似してはいけない悪例です。
 伝奇的な雰囲気とか、登場人物のキャラ立ちとか、後の作品に与えた影響は大きい。ショッキングな死体の見せ方は、TRPGの参考になります。あの死体なら恐怖判定するというのは納得できるでしょう。

◆漫画

『DEATH NOTE』
 少年ジャンプに連載され、後に実写映画化。アニメ化もされました。原作と結末の異なる映画版からスピンオフ映画『L change the worLd』も作られました。名前を書いた相手を殺せる殺人ノートを入手した若者が理想社会を夢見て、犯罪者を殺し始めます。対するのは、目的のためなら手段を選ばず、違法捜査を気にしない名探偵L(本名を明かさない)。ルール制限のあるSF殺人手段と、未知の殺人方法を調べる捜査側の緊迫感溢れる頭脳戦/心理戦が見所です。名探偵Lは別格としても、Lに協力する捜査チームや、第二部のニアと捜査員とメロの共闘は、TRPGのチームプレイに通じます。犯人がガールフレンドや信奉者を道具として使うのと対照的です。

『宗像教授伝奇考』『宗像教授異考録』
民俗学者の宗像教授が歴史や日本神話をはじめとする神話・伝説の知識を駆使して、歴史の謎を解き明かす。時には天災に遭遇したり、危険な組織の秘密に触れそうになったり、クトゥルフ神話の探索者のような危機に瀕することもあります。妻子を亡くしたときの交通事故で宗像教授も足を負傷し、それ以降はステッキを常に装備しています。悪漢相手に杖術で戦うこともあります。頭脳派だけど、戦闘に巻き込まれたときの用心もしている、探索者の鑑のような人物です。

『おみやさん』
 石ノ森章太郎先生の隠れた名作萬画。昭和60年代に緒形拳主演で二度ドラマ化され、木曜ミステリー枠で渡瀬恒彦主演で再度ドラマ化されました。時効前未解決事件を扱う「資料課」に勤務する警察官、鳥居勘三郎が主人公(死霊課ではない、念のため)。迷宮入り事件と鳥居という姓をかけて「おみやさん」という愛称で呼ばれています。捜査資料を読み解いて、謎を解く。ときには刑事の相談を受けて、調査している最近の事件と過去の事件とのミッシングリンクを見つけて、時間解決の糸口となることもあります。過去の事件には掘り起こさない方が良かった真実というのもあるわけで、そういう事件が描かれると考えさせられます。しかし、法は守らねばならない、犯罪は裁かれるべきと、おみやさんはクールにプロ意識を見せます。

◆小説

『百器徒然袋 雨』
 神なる探偵、榎木津礼二郎が事件を粉砕する探偵小説。もともとは京極夏彦の『姑獲鳥の夏』に始まる京極堂シリーズの副主人公であり、その「他人の記憶を視る」能力で事件解決に一枚噛んでいました。人気の高さから、スピンオフ連作中編で主役になりました。もと華族で財閥の御曹司に生まれ、帝大を出た頭脳の持ち主で身体能力も高い。その特殊能力ゆえに探偵を開業しました。捜査も推理もせず、真相を言い当てるだけ。性格に難がある(ように振る舞い)、常に周囲の人間を振り回す。だが何故か評判が上がり、親父のコネから依頼されることも。しかし、薔薇十字探偵社に集う下僕(と榎木津に呼ばれる部下)たちは、いわゆる地道な調査活動をしています。探偵シナリオでは部下たちをPCとするもよし、超常能力ありのシステム(『トーキョーナイトメア』など)なら榎木津礼二郎のような神なる探偵もできるかもしれません。

『心理試験』
 さて、最後に紹介したいのは江戸川乱歩先生。江戸川乱歩の生み出した名探偵、明智小五郎は大正時代から昭和の戦後にかけて活躍します。手始めとして、初期の短編で謎解きシーンが凝縮した作品として『心理試験』から読み始めてはどうでしょうか。『パノラマ島奇談』『孤島の鬼』などトリックを扱った小説も何作かありますが、江戸川乱歩の本領は『押絵と旅する男』『鏡地獄』などの怪奇幻想小説や、『怪人二十面相』に始まる少年探偵団の少年向け作品で発揮されています。
 そして、江戸川乱歩は作家というだけでなく評論家、探偵小説の普及活動に勢力を注いだ人物として有名です。時間に余裕があれば『探偵小説三十年』や『幻影城』にも触れて頂きたいところです。