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#76 理事長のコラム─手話ドラマを観て─

1.手話を始めるきっかけ

NPO法人にいまーる 理事長の臼井です。
先月末に、手話通訳士試験の結果が発表されました。
合格された方々おめでとうございます。
残念な結果になった方々、日々の現場での実践を糧にステップアップしていけることを願っています。

ところで手話通訳士の年齢も公表されていますが、50代以上が半数を占めていました。
若手スタッフ(Z世代)からは驚愕の声がありましたが、仕事上、手話通訳者との付き合いが多い私にとっては「まあ、そうだろうな」という予想通りの結果です。
とはいえ、もう少し若手が育つ土壌作りが大事だと実感しています。

若手スタッフとの関わりのなかで、手話を始めたきっかけについて聞くと、本当に色々な話が出てきます。
手話を知っていても、いざ勉強してみようとなるのには何らかのきっかけがあるからです。

・自分の周りに英語が分かる人はたくさんいるけど、手話を知っている人がいなかったから興味をもった。
・子供の時に友達の家に遊びに行ったら、親がろう者だったから。
・手話ドラマを見ていた恋人に「あなたも手話やってみたら?」と言われたから。

2.『オレンジデイズ』とは

手話ドラマといえば、先日、Netflixで『オレンジデイズ』がラインナップされていました。
2004年に日本のテレビドラマで放送されていたもので、手話に縁があるZ世代にとっては「手話のドラマでオレンジデイズ以外は知らない」というほど、手話の世界では広く知られています。

https://ja.wikipedia.org/wiki/オレンジデイズ

2004年以前にも、手話のドラマが地上波で放送されたことはありましたが、ろう難聴者=可哀想・支えてあげるべき存在という印象が強かったため、
『オレンジデイズ』で柴咲コウが演じたろう者の姿が、これまでのネガティブな固定観念を打ち崩した感がありました。

当時、リアルタイムで視聴していた私は第一話が終わった時、ろう者同士で「あれは良かったね、ストレートに表現できていて気持ちいい感じ!」と高評価でした。
ただ、話が展開されていくにつれて「それはちょっと違うんじゃないかな」と周りで議論になりました。

ちなみに、今の10代にとっては『silent』や『星降る夜に』の方が印象強いかもしれませんが、最近『デフ・ヴォイス〜法廷の手話通訳士〜』が放送されました。
https://www.nhk.jp/p/ts/D6P3JWP8J7

このドラマは、今までに放送されていたものと違って、手話つき版の放送も行われるほど、ろう難聴者の当事者の存在が表に出てきており、画期的なドラマになっています。

3.手話ドラマに対する見方

手話を始めた方や手話をこれから始める方にとって、ドラマは、手話の世界に関わる一つのきっかけになりますし、素敵なドラマに出会う喜びもあります。
一方で、ドラマで描かれるろう難聴者の姿に違和感を抱く方もいます。

私自身も、学生生活を『オレンジデイズ』と共に歩んだので、良いドラマだったけれど最終話を見終えた時に、消化不良のようなもやもやが残った経験があります。
20年前といえばSNSはmixiくらいで、ろう難聴者の多様な生き方を知る機会が限定的でしたし、テレビというメディアへの距離感が今よりも近かったので、「実際のろう難聴者はこんな姿ではない」という反発心からきたものでした。

4.日本語を使う方々へのメッセージ

手話のドラマはエンターテイメントの一環であり、所詮はドラマ、されどドラマでもあります。
実際に、世の中には「乗り越えれば大丈夫」という精神論だけでは解決できない社会的障壁があります。
それを踏まえたうえで、私たちは生きているのであり、ろう難聴者の視点(価値観、言語、文化)抜きでは語れない部分をドラマで反映していくことで、より実態に近づいた描かれ方ができて初めて、本当の意味での異文化理解(障害認識も含めて)が可能になるのだと思います。

最後に、メディアにおいてとても参考になる書籍がありましたのでご紹介します。

論考「メディアにおけるろう・難聴者の描かれ方に関する問題提起とガイドライン」、『福祉労働175号』https://amzn.asia/d/jlLsxSH

手話とエンタテイメントについてネット上では様々なコミュニティが活動していますので、ぜひチェックしてみてください



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文:臼井千恵
Twitter:@chie_fukurou

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