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#38 人工内耳を装用して見えてきたこと①

にいまーるは、障害福祉サービス事業を中心に手話普及活動も行なっている団体であり、ろう者と聴者が一緒に働く職場です。
障害福祉サービスの利用者は全員耳が聴こえません。
しかし、スタッフの比率は、ろう者2割:聴者8割と、聴者が多いので、双方の文化の違いが垣間見え、時には食い違うことも多々あります。
そんな職場から生まれ出る、聴者とろう者が共に仕事をする中での気づきを連載していきます。
今回は、にいまーると繋がりのあるCさん(匿名希望)から寄稿いただきました。ご自身の経験をもとに「人工内耳」について書いていただきました。
■プロフィール
Cさん(匿名希望)
生まれた時は中等度難聴。補聴器を装用して、地域の小中学校(難聴学級)に通う。13歳の時に完全失聴。手話を学び始め、高校は聾学校高等部に進学。以降、手話を中心にコミュニケーションをとる。30歳のときに人工内耳手術を受け、左耳のみ内耳を装用。現在は特別支援学校教員として勤務。

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「人工内耳ってどんな風に聞こえるの?」 

人工内耳を装用して9年。家族や友人、職場の人や活動仲間・・・人工内耳を装用していることを伝えると、多くの人が驚いた顔をして、そう聞いてきます。

人工内耳で聞いている音を「ことば」で説明するのはとても難しいのですが、多くの人が興味を持って聞いてくれるのはとても嬉しいことです。

しかし、「人工内耳にしたら、ほんとよく聞こえるらしいね」「人工内耳にしたら手話はなくても大丈夫だよね」と言われることも少なからずあります。

人工内耳のことをもっともっと多くの人に知ってほしいと思い、今回は人工内耳のことを紹介します。

「静かな環境下であれば、音声がはっきりと聞き取れることも多い」

人工内耳装用者の聞こえもそれぞれなので一概には言えませんが、「よく聞こえる」というのは嘘ではありません。

しかし、

① 静かな環境下であること
② 一人ずつ、大きな声でゆっくりはっきり話してくれること

この2つの条件がつきます。この条件がそろわないと、音声のみでの会話は難しいのです。この条件が満たされる場所って、生活の場面でどれだけあると思いますか?

気づいた方もおられるかもしれませんが、電車や車、アナウンス、人々の話し声など、あらゆるところに音が存在しており、このような音が混じると、聞き取りは格段と悪くなってしまうのです。

私の経験上、この条件が満たされるのは、家の中で家族や友人(2~3人)と過ごすときだけです。家の中で自分のことをよく知ってくれている家族と友人と話すときは、自分でも驚くほどよく聞こえます。マスクをしたままでもスムーズに聞き取れるほどです。

「たまには家ではなくて外食でもしようか?」って話にもなりますが、外に出ると、同じメンバーであってもびっくりするほど会話が聞き取れなくなります。少しでも音が聞き取りやすいようにと考えて個室など静かな場所を探すこともありますが、見つけるほうが大変なので「それならもう家で食べよう」って話になることが多いです(笑)

それに比べて、聴覚障害をもつ仲間と手話で話すときは、音の問題を気にする必要もありませんし、手話が見える明るい場所であればどこでも話ができるので、本当に気楽で楽しく過ごすことが出来ます。

「人工内耳装用児にも、早くから手話に触れる機会を!!」

このように人工内耳をしても、聞こえづらい場面が多くて困ることの方が多いのです。たとえ、よく聞こえている場面があるとしても、「聴覚障害者」であることには変わりはありません。だからこそ、人工内耳にしていても、「見てわかる」コミュニケーション手段として、手話が絶対に必要です。人工内耳装用している子どもたちにも早い段階から手話に触れる環境を整えていくことが大切だと思います。

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文:Cさん

編集:横田大輔
Twitter:@chan____dai

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