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農作物の輸入自由化とTPPなどの貿易・経済連携協定について

みなさん、TPP(環太平洋パートナーシップ)協定という日本を二分するような議論が数年前に行われていたのを覚えている方も多いのではないでしょうか。

世界経済は「自由貿易の時代」へ流れていますが、、国家間の貿易を盛んにすることで「国際的な分業制」を実現しようというものの一つとしてTPPが検討されました。

ただ、その中でも農作物で自由化されている品目は限定的で、牛肉とオレンジ(部分解放という形で米)のみで、他の農業製品に関しては輸入が制限されています。これは日本の農業を守ろうとする政府の方針でもあるのですが、果たして本当に輸入自由化は日本の農業を破滅させるのでしょうか。

少し真剣な話題になるのですが、考えてみたいと思います。

なぜ、TPPが必要だったのか

アジア太平洋協力会議(APEC)のメンバー国であるシンガポール、ブルネイ、ν湯ジーランド、チリの4カ国間で関税の撤廃、サービス貿易、投資、金融などについて、自由貿易の障害をすべて除去しようとする自由貿易協定の締結がなされ、これをP4と呼びます。

さらに2010年に米国、豪州、ペルー、ベトナム、マレーシアの5カ国が交渉に加わり9カ国となり、2012年にはカナダ、メキシコ、2013年に日本が交渉に参加(米国は2017年に離脱した結果)11カ国で交渉が続けられ、2017年11月には大筋で合意。2018年03月に11カ国による協定の署名が行われ、2018年12月30日発行が決定し動き出しています。

では、TPPに参加することでどんな利点があるのでしょう。

世界経済の中にはFTAやEPAといった取り組みがあり、FTA(=Free Trade Agreement、日本語では「自由貿易協定」。)特定の国・地域の間で、輸出・輸入にかかる関税や、輸入(輸出)許可を行う際の厳しい基準や条件(自由化率は一般的には90%以上と解釈)など企業への規制を原則10年以内に取り払いモノやサービスを自由に行えることを取り決めた条約のことを指します。

EPA(=Economic Partnership Agreement、日本語では「経済連携(れんけい)協定」)とは、FTAのような貿易の自由化だけではなく、人の移動や、投資の自由化、知的財産権の保護等幅広い分野での連携で、特定の国・地域間で密接な関係強化を目指すためのルールについて取り決めた条約です。

なんだか小難しい言葉ばかり並んでいますが、簡単にいうと世界中の国々で強みを持っている産業を自由に行き来させるような綱引きを各国間で行っているのだと考えてください。2021年3月時点で確認できる各国間での貿易網は以下のような状況です。


図01_日本の経済連携の推進状況(2021年3月現在|経済産業省)

TPPとは、環太平洋に接する国々でEU(=European Union 欧州連合)のような経済連携で自由貿易を行い、得手不得手を踏まえた相互補完的な経済圏を確立させようとした動きだと理解できます。

TPPで何を決めるのか

日本国内でも大議論を巻き起こしたTPPですが、その中で何を決めるのでしょうか。

元々、上記しているFTA(自由貿易協定)やEPA(経済連携協定)はWTO(世界貿易機関)と呼ばれる、世界で円滑に、そして自由・公平にモノやサービスなどの取引が出来るようにするための貿易ルールを決めている国際機関の働きが機能しにくくなってきたことから派生したものです。

WTOでは、全参加国の意見が合意することを条件にルールづくりなどを行っていたこともあり、物事の決定から実施に至るまでに非常に大きな時間が必要でした。そこで、合意できそうな国々が個別に交渉をするようになったことから生まれたのがFTAやEPAといった協定なのです。

TPPは、EPAと同じように国境を越えた経済活動をスムーズにするための必要なルールを決めることです。ただ、これまでWTOやEPAで議論され制定されてきたルールよりも多くの項目が対象になっているため、さら高いレベルの自由化が目標とされています。

図02_TPPは高度なEPA交渉|一般社団法人 日本貿易会

また、交渉される分野に関しても多くの分野で交渉されることとなっており、ものやサービスだけでなく労働などの人に関わる事項も盛り込まれているのが従来のEPAよりも高度であるといわれる理由でもあります。

図03_TPP交渉で扱われる21分野|一般社団法人 日本貿易会

農作物は対象外のなぜ

アメリカとの間で日米貿易協定なるものが2020年1月1日に発行となりました。

日米貿易協定について|農林水産省

内容は以下の通りで、一つ一つを見ていくと時間が多くなるのですが、簡単に述べると、米についての輸入は保護したものの牛肉や乳製品の輸入については強く迫られているといった内容です。

  • コメの関税撤廃・削減は除外

  • 関税の撤廃、削減をする品目はTPPと同じ

  • 脱脂粉乳、バターなどはTPPワイド枠(TPP参加国が利用可能な関税割当枠)が設定されている33品目について新たな米国枠は設けない

  • 牛肉についてはTPPと同様の関税削減、2020年のセーフガードの発動基準数量を昨年度の米国輸入実績より低く設定

  • 農林水産品についてTPPの範囲内に抑制。TPPの関税撤廃率約82%より大幅に低い約37%にとどめた

  • 牛肉の輸出について、現行の日本枠である200トンと複数国枠を合わせ複数国枠65005トンへのアクセスを確保

  • 醤油、長いも、切り花、柿など輸出関心の高い品目に関しては関税撤廃・削減を獲得

上記はアメリカとの貿易関税に関する取り決めのため、WTOの範疇であり地域間での協定となるTPPとは異なる個別国家間協定となります。

今回の協定によってアメリカからの輸入における畜産業や農産物の輸入が多くなることが予想されるわけですが、生活者の視点に立つと大規模な経営によってコストが削減できているアメリカ産の農畜産物と比較し、日本の農畜産物は運営主体が分散しているため関税が低くなることで安い農畜産物が増えて生産者が窮地に追い込まれる事態になることが懸念されています。

では、輸入量が増えたからといって必ずしもすべての農畜産物が駆逐されるような事態になるのかというと、それはあまりにも日本の農畜産家をバカにしたような見方ではないでしょうか。

日本の農畜産家が生産する食品はどれも品質が高く、非常に美味しいことは私たちは認識しているはずで、安いものが大量に入ってくるからといっても、それらが不味くなるわけではありません。

もちろん、経営的に立ち行かなくなる農畜産かもいるでしょうが、経営が集約化されることによって日本の農畜産物の価格を抑えることも可能になることも期待できます。

一点、忘れてはならないのは、貿易や経済協定に後から入り込むことは非常に敷居が高くなることです。初めから参画している農業国Aがあったとして、そこが協定内で独占的に輸出を増やすことに成功していた場合、日本が後から入ることは農業国Aが猛烈に反対をすることが容易に予想できます。

輸出入の取り決めは各国の経済が絡む非常に大きく繊細な取り決めになりますから、おいそれと簡単に決めるわけにはいかないだろうとは思いますが、同時に、日本の生産者がつくる農畜産物であれば世界に出して行っても売れるのではないかと期待を持てますし、輸入によって大量に安価なものが入ってきたとしても味に満足している生活者が簡単に見切りをつけるとも思えません。

いずれにしても注視していく必要があるものの、同時に期待をできる面もあるのではないかと考えてもいます。

少し長くなってしまいましたが、全く関係のない話ではなく、日常的に購買する農畜産物について考える機会を提供できたとしたら幸いです!

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