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日本語教育のゴールの変遷

東京都のオンラインマスタークラス「日本語のタネ」の糸川優です。
複数の大学で、日本語教育、キャリア支援、日本人のアカデミックライティングなども担当しています。

80年代から始まった、私の日本語教育の歴史を振り返ってみたいと思います。

昭和の頃、日本語能力試験に合格させることイコール日本語教育だったといっても過言ではありません。ほとんど、日本語教育のゴールは大学入学、という時代です。大学では、留学生に対する日本語教育がまだほとんどないありさまで、日本語教育といえば、就学生を大学や専門学校に入学させる目的であり、日本語学校が担っていました。それから、徐々に始まった大学の日本語教育については…各自が良かれと思うことをやっていたような気がします。新聞が読めたら、文句なしに上級だね、という感じだったのではないでしょうか。(いやいや、今や、これは中級程度だから)

そして次の段階として、アカデミックジャパニーズ。それまで、昭和の時代には、JLPTのN2やN1に合格して大学に入学した留学生が、大学ではほぼ放置されていました。その頃の留学生はまだ数も少なく、留学生10万人を目指していた時代です。が、留学生の数も増加し、そのままでは大学の授業についていけない人のために、大学の日本語教育も整っていったように思います。

ところが、それからほどなくして、日本経済の没落、生産人口の減少、それに連動してグローバル化が叫ばれるようになり、お試しのような感じで留学生を採用する企業が出てきました。また、かつては経済大国日本で経済を勉強したいと来日していた留学生が、今度は、母国での就職が難しいからという理由で、つまり、日本で仕事をしようという目的から日本の大学を目指す人が増加してきています。

日本で就職を希望するのであれば、本当にネイティブ並みの日本語力が求められます。選考にあたって重視される点の筆頭はコミュニケーション能力です。ネイティブと同じレベルとはいいませんが、ほぼ同等のレベル、です。ところが、N1合格者でも、合格したという事実が残っているだけで、N1の文法が使える人はまずいません。ネイティブレベルにはほど遠いと言わざるをえません。

大学入学を許可した留学生に対して、大学は何をしてるのか?きちんと教育している大学も少なくないだろうと思います。10を超える大学を見てきましたが、日本人には英語、留学生には日本語ということで、大学の日本語教育も1、2年生で終わってしまうところが多いのです。もとより、話す能力を問われることがほとんどなかった留学生は、結果的に、日常会話レベル+αで終わってしまうのです。そして、自分の日本語力が就活にとうてい追いつかないという事実に、4年生になって初めて気付くことになるのです。

留学生の進路として就職状況を詳らかにしている大学はほとんどありません。留学生にとって、大学の名前は重要でしょうけれど、出口問題も看過できません。管見では、留学生の9割以上が日本での就職を望んでいるように見えます。近いうちに、各大学における留学生の就職状況を知りたいという声が高まるのではないでしょうか。

日本人学生にも同じことを感じますが、書く、話す能力をあまりにも軽視している大学入試に問題があるかもしれませんね。


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