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日本語クラス潜入レポート vol.5 早稲田EDU日本語学校

※この記事は2019年に公開された過去記事です

みなさんこんにちは、浦です。おかげさまで5回目となるこちらの連載。
日本語クラスの授業の今、をお伝えします!
今回も他の日本語学校にお邪魔して、授業のようすを日本語教師目線で見てまいりました。この日は通常の授業とは異なり、学生のみなさんの成果を発表する会とのこと。学生が授業で準備して発表するなんて、よくある形式じゃん、と思ったあなた。ぜひ、最後まで読んでみてください。


◆◆今回の学校◆◆

早稲田EDU日本語学校
東京都市ヶ谷にある日本語学校。学生は進学を希望する中国・ベトナム・韓国からの留学生を中心に703名(2019年8月時点)。EJU対策講座のほか、中国人向けの美術進学コース、大学院進学コースも設置している。

さて、東京都・市ヶ谷駅にやってまいりました。オフィスビルや大学のビルが建ち並び、ビジネスマンが行き来する街でございます。地下鉄の出口から歩いてすぐのところに、今回見学する「早稲田EDU日本語学校」がありました。

早速お邪魔しようとすると……おや、入口のドアになんかチラシが貼ってある。

ん? 「ミニプレゼン発表会」……? あれっ、これは今から私たちが見せていただく発表では。もしかして取材の我々だけでなく、学校外部の方に発表を公開しているってことなのかしら。ほほお、おもしろい取り組みだなぁと思いながら、中へとお邪魔いたしました。

わたしたちの発表会へようこそ!

通されたのは教室、ではなく、この日の発表会のための「受付ルーム」でした。出迎えてくれたのは1人の学生さん。「こちらで受付をお願いします。」
わざわざ外部の参加者である私たちに、名札を用意していただいていました。しかも名札の字が達筆。すてき。こういう運営も、教師ではなく学生が行っているんですね。そして会場となる教室へ。部屋の片隅でひっそり見学するつもりでいたら、なんと最前列にお客様席がご用意されているじゃありませんか。レジュメのほかにお水まで用意していただきまして。「来賓」感がすごい。ありがとうございます。
会場にはBGMが流され、10名以上ものゲストの方が続々と集まってきました。今回発表する1クラスのほかに、別の1クラスの学生も観客として参加するようです。外部の人も含め、これだけの人数の前で発表する機会があるというのは、緊張感もあっていいですね。

外国人ならではの視点でのプレゼン

いよいよ各グループが発表! 1グループ3~5名、それぞれ自己紹介ののちにプレゼンを行いました。

①「すぐ謝る日本人と絶対謝らない中国人」
日本人はすぐに謝るが、中国人は謝らない、という文化の比較をテーマとした発表です。こちらは同タイトルの書籍があるそうです。イントロダクションとして、NHKのテレビ番組の動画を紹介。冒頭で動画を使ったことで、見ている側が一気に引き込まれた感じがしました。本や論文からも引用しながら、「場合と相手によっては日本人より中国人のほうが謝る場合もある」「中国人と日本人の相互理解が重要」といった説明がされました。

②「スマホ決済アプリについて」
最近日本でも増えつつあるスマホ決済アプリ。しかし中国の高い普及率に比べると、日本はまだ現金利用が多い! ということで、スマホ決済アプリのメリットについて解説。日本での普及が進まない理由を述べながら、中国人の若者という自分たちの目線から解決方法を提案し、まとめていました。

③「ことわざの日中比較」
3番目の発表では日本語と中国語のことわざに着目。1)日中で意味も表現も同じもの、2)日中で意味が同じだが表現が違うもの、3)中国にしかないもの、という3分類で紹介していました。こちらのグループは資料も配布し、時間をかけて下調べをしたんだろうなあ、ということがよく伝わってきました。

④「10800*10か、108000*1か」
一見しただけでは何のことだかわからない、変わったタイトルをつけた最終グループ。「このタイトルは何だと思いますか」と会場に問いかけることからスタートしました。実はこれは「分割払いと一括払い」を表しているんです。中国と日本の大学生の分割払い使用状況データなどを示しながら説明を進めていました。

4つのプレゼンはどれも、日本に住む留学生ならではの視点。プレゼンを聞く私たちは、学生のみなさんの感覚を通して、日本を改めて知ることができました。驚いたのは、どの発表もかなり下調べに時間をかけたであろう、ということが伝わってきたこと。資料を集め、分析し、まとめたうえで自分の意見を伝える。このプロセスを日本語学校の授業の中で体験できているということは、今後進学先でも大いにプラスになるんじゃないでしょうか。
それぞれの発表に対し、観客側の学生からも積極的に質問が出されました。そこでも発表者のみなさんはまったく戸惑うことなどもなく、どんな質問にも対応していたことが印象的でした。

プレゼン終了後は……

全グループのプレゼンが終わると、ゲストとして呼ばれた全員が感想を求められました。ゲストのみなさんから、見ている側も発見があり、良い発表だったというコメントがされていました。学内の先生や学生からではなく、初めて会った日本人から感想を言ってもらえるのは貴重なことですよね。日々の教室で教師から言われることよりも、こういう特別な場でもらった言葉のほうが印象に残るかもしれません。
最後に担当の先生からまとめの挨拶がされ、ミニプレゼン発表会は終了したのでした。退室しようと思ったら、発表した学生のみなさんがお礼とともに、かわいいお土産をくださいました(中身はメッセージ入りおせんべい)。
なんというおもてなし。こちらこそ見させていただき、ありがとうございました!

放課後インタビュー

後日、今回の授業を担当された内田先生にお話をうかがいました。

—発表したクラスについて教えてください。

内田 学校で一番上のレベルですね。学生は全員ではありませんが、ほぼN1を持っています。上位の大学や大学院を目指している学生たちですね。

—今回、観客として参加していたクラスは?

内田 普段、隣の教室で授業をしている、1つ下のレベルのクラスの学生です。

—クラスではこの「ミニプレゼン」以外は通常どんな授業を?

内田 私自身は「ミニプレゼン」の授業だけを1週間に1回2コマ担当しているのですが、他はメインテキストや文法の授業が行われています。

—「ミニプレゼン」の授業ができたのはなぜですか。

内田 早川校長から、「一番上のクラスで、日本語がある程度できる人たちだから、<日本語で何かをする>ということを大切にしていきたい」という話がありました。

—準備期間はどのくらいでしたか。

内田 準備の授業は8回です。「プレゼンとは何か」というところから始めました。

—日本人のゲストを呼ぶ、というのは内田先生のアイディアだったんですか。

内田 はい。授業の目的を考えることから全部やっていいということだったので、日本人のゲストを呼ぼう! と考えました。教師以外の日本人と交流する機会を、と思いまして。ゲストを呼ぶことを伝えたら、学生はざわついていましたが。学生には、ゲスト探しの部分もやるように言いました。

—ゲストは結局どのように集まったんでしょうか。

内田 私のTwitterでの呼びかけで来てくださった方や、日本語教師の交流会で出会った大学生の方ですとか。あと、以前この学校の見学に来た、日本語教師養成講座受講中の方にも声をかけたら来てくださいました。他にも、学生とルームシェアをしているシェアメイトやお友達など……日本語教師だけでなく、日本語教育に関連のない方もいらっしゃっていました。

—授業時間以外にも学生のみなさんは集まってプレゼン準備をしていたんでしょうか。

内田 そうみたいですね。でも、基本はオンラインでやりとりしていました。塾やアルバイトで忙しいので。

—グループ作業だと、頑張る人とそうでない人、という差が生まれてしまうこともあると思いますが……

内田 あ、それはありました。ですが、そういうことがある中で、どう解決していくかも彼らに委ねていました。
大学院の受験準備でいっぱいいっぱいなので、できあがったパワーポイントのチェックの役割だけにしてほしい、と自らグループのメンバーに交渉している人もいました。でもグループの中でそれでいい、と学生どうしが納得しているのであれば、私は静観していました。

—作業中、学生は日本語を使っていたんですか。

内田 最初は日本語で頑張っていました。ただ、全員中国人のクラスだったので、内容を深めようとヒートアップしているときは、一番よくわかる母国語で話していてもいい、ということにしていました。

—テーマ決めはどのように?

内田 はじめ、学生が「テーマは何ですか」と聞いてきたので、「えっ、私が決めていいんですか」と返したら、彼らは驚いていましたね。先生からテーマを与えられるのが当たり前、と思っていたようで。テーマ設定は自由だったんですが、日本語学校で日本人をお招きして発表するに値する内容かどうかは精査させてください、と言っていました。

—内容に関して、先生からアドバイスしたことは何ですか。

内田 「すぐ謝る日本人と絶対謝らない中国人」のグループは、もっと自分たちの考えを日本人に理解してほしい、言い分を聞いてほしい、という感じだったんですよ。また、「スマホ決済」のグループも、当初は「中国はこんなに進んでいるのに、日本は~」という構成でした。そこで、伝えたい側の自分たちの気持ちだけでなく、聞く側の立場になって考えるように、というアドバイスをしましたね。

—プレゼンを終えて、学生のみなさんからリアクションはありましたか。

内田 クラスでLINEグループをやっていて、発表会直後はみんな興奮していました(笑) 会場で直接反応がもらえたことがいい体験だったみたいで。

—運営の準備はどのように進めたんですか。

内田 授業の中で、イスの準備・司会・進行表を作る人・当日ゲストに渡す水を買ってくる人など、役割分担を学生どうしで決めてもらいました。

—プレゼンをクラスの活動として行う際に、先生の役割はどういったものになるんでしょうか。

内田 教師が表立って何かをする場面はないので、ファシリテーター、プロモーターというのもちょっと違うんですよねぇ。コーディネーターというか、「伴走者」といった感じでしょうか。ペース配分を見てあげたりですとか。私はプレゼンの授業に限らず、いつもこのスタンスですね。読解もピアリーディングでやったり、文法も「じゃ、ちょっと前に出て説明してみてください」だとか。でも、どんな形で授業を進めるかは、基本的にクラスの学生たちに決めてもらっています。

—なるほど~。今回見させていただいたプレゼンだけでなく、学生が主体となった授業が日本語教育の世界でもどんどん広がっている印象がありますね。今回はどうもありがとうございました!

さらに、早稲田EDU日本語学校の早川校長先生にもお話をうかがいました。

—プレゼンのクラスはどのように始まったんですか。

早川 昨年の同じレベルの学生が「自分たちに足りないのはプレゼン能力だ」と言っていたことから授業が始まりました。昨年も、今回とは異なる形でプレゼンや発表活動に取り組みまして、なかなか難しい部分はあったんですけど、やはりこういう機会を作るのは大切だろうと。内田先生が日頃から「学生が自分で考えて自分で動けるようにならないと意味がないんじゃないか」というお考えがあると聞いていたので、今年のプレゼン授業をお願いすることにしました。

—このクラスでは他にも活動を行っていますか。

早川 たとえば、3か月かけて、壁新聞を作るという活動をしていますね。このクラスは学校の中でも1番上のレベルで、もうN1も取っていてEJUも高得点、という人たちで。どうしたらこの学生たちに「学校が楽しい」と思ってもらえるか、カリキュラムを考えるときにいつも苦労します。

—今回のプレゼンをご覧になってどうでしたか。

早川 うーん、日本語の力としてはまだまだ、と思いましたね。ただ、普段の授業よりも学生がイキイキとしていて、覚悟を決めるとこうも違うか、と感じました。「やれ」と言われたからやっているのではなく、最終的には「見せたい」という気持ちが彼らの中に生まれたんだろうなと。今後もこの授業は続けたいです。

—最後に、このプレゼン発表会の授業を終えてのご感想をお願いします。

早川 あの日にゲストの方から言われたことは、学生たちにもかなり響いたようでした。長く時間はかかりましたけど、発表会のあの日、そのものが「授業」だったなあ、とすごく思います。

—学生のみなさんにとっても、日本語学校生活の中でとても心に残る一日になったと思います。このたびは本当にありがとうございました。

まとめ

第5回は早稲田EDU日本語学校「ミニプレゼン発表会」のようすをお届けしました。インタビューの最後に早川校長先生もおっしゃっていたこと、私も見学した日に思いました。
この発表会の丸ごと全部が、学生の学びになっているんですよね。外部の日本人を呼んで受付をすること。イスの配置、水のペットボトルの買い出し。大勢の人の前で司会をする、発表をする、質問に答える。外部の方からフィードバックをもらう。最後に来てくださった方にお礼を言う。
これら1つ1つの「体験」が、これから大学や大学院に進学するみなさんの役に立つに違いないと感じました。これから同級生となる人たちが、どれだけこのような体験を持っているのでしょうか。
今回の発表会を行った彼らにとっては、これは強みの1つになり得ます。

「日本語学校が、外の世界とつながること」の重要性についても、改めて考えさせられました。それは学生の学びのためでもあり、世の中に「日本語学校」を知ってもらうためでもあります。
少しずつ世間の目が「日本語教育」に向きつつある今、日本語教師には日本語教育機関・学習者と世間一般の人々をつなぐ役割もあるのではないでしょうか。今回の発表会のような企画で、実際に日本語を学ぶ学生たちの頑張りをいろいろな方に見てもらう。そういう取り組みが増えれば、「へえ~、留学生ってこんな人たちなんだ!」「日本語学校ってこんなところなのか、イメージと違ったな~」といったふうに、日本語教育への世間の理解も深まっていくはずです。

日本語クラス潜入レポートの取材を続けてきて、いろいろな形の日本語の授業を目の当たりにし、自分の中でも「日本語教育」の捉え方が変わってきました。自分の勤務先でも、ともに働く先生たちとともに、新たな授業の形を実践しています! 
今回の記事のように、日本語レベルの高い学生が主体的にプロジェクトを進めるということもやっているんですが、逆に力がなかなか伸びない学生のみなさんに、これまでとは違う形の授業を提供する、ということも挑戦中なんです。その彼らの表情を日々見ていると、ああ、いわゆる「できる学生」が相手でなくたって、教師側のアイディア次第で学習者が輝く授業は作っていけるんじゃないか、そうだと信じたい……そんな気持ちになります。
記事を読んでくださっているみなはいかがでしょうか。この連載記事が、あしたの授業、あしたの日本語教育に広がりが出るきっかけの1つになったら嬉しいです。

これからもいろいろな形の日本語クラスをレポートしたいです。「うちの学校の授業をぜひ紹介してほしい」「あの学校の授業おもしろいよ」などなど、自薦他薦問わず、見学&レポートさせていただける学校さん募集中です!


《取材・文》浦 由実(うら ゆみ) アン・ランゲージ・スクール成増校 専任講師。大学卒業後、420時間養成講座を受講し、日本語教師に。2年間非常勤講師をしたのち、専任になり、教師歴は8年目。(※2019年当時の情報)
授業や専任の業務を頑張りつつ、日本語教育の世界をもっともっと盛り上げていくのが夢。学習者と日本語教師のみなさんの役に立てる教師になりたいです。


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