【読書レビュー③】春日武彦「恐怖の正体」
こんばんは。PisMaです。
本日も「恐怖の正体」を読みました。
第3章「恐怖の真っ最中」。
「恐怖の真っ最中」は、人が恐怖に直面した瞬間に起こる症状や状態についてフォーカスを当てた章です。
一例として家の中にゴキブリが出現したときに起きる心情の変化や、時間の感覚の変化について紹介されています。人は恐怖に直面した際に過度に意識が過敏になり時間が経つのをゆっくり感じるのだとか。
同じような症状として「高い建物から落ちている人」の描写がある小説が印象的でした。興味深かったので、ちょっと引用させていただきましょう。
落下の速度がしだいに増していった。これほどのスピードを肌で感じるのは生まれて初めてだった。ほかのどんなものにもたとえようがなかった。
速度がさらに増すと仰向けのまま両腕を広げて宙を掴もうとした。
灰色の空をバックにホテルの屋上が視界に入り、落下の勢いで耳たぶが上向きに曲がるのが分かった。
今やこの命は自分よりずっと大きな何かの手に委ねられたことを悟った__
T・ジェファーソン・パーカー「レッド・ボイス」(七搦理美子訳、早川書房)
落ちていくときの全てに意識が集中し、何秒もしないうちに多くの情報が溢れる状況。恐怖の渦中にいながら怖いという感覚は麻痺しているようで、本書では「粘り気のある時間」と表現されていました。
恐怖というのは渦中にいると感覚が麻痺して恐怖を感じることは多くなく、後から反芻するときの方がよっぽど恐ろしいようですね。
また別種類の恐怖の紹介もありました。
「過覚醒」という症状について。
精神疾患についてのお話になるので、あまり詳しくは話せないのですが…不眠になったり音や光に過敏になる他に「普段なら見過ごすことにも意味を見出したくなる」といった幻覚妄想が症状にあるようです。
世帯を持つ普通の女性が、ある日夜の山を見ているときに大きな星が一つ輝いているのを見る。
「あれは自分は選ばれた暗示だ」と思い込んでしまい、突然今までの生活を捨て聖母のような生活を始めてしまう。家族の目線から見たら女性の豹変具合に恐怖を覚えることでしょう。
心を病んだ人たちはとんでもなく見当外れのところに救世を見出し安心しようとするケースがある。これを「偽りの救世」と本書では綴られていましたが、これ如何に。
様々な偶像溢れる現代に果たして本物があるのかどうか分かりませんが、このレビューの読む方々に対しては偽りにならないよう、努めていきたいところです。
本日はここまで。
続きはまた今度。
お相手は黄緑の魔女PisMaでした。
偽りの救世に命を掬われぬよう。
おやすみなさい。
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