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【読書レビュー①②終】宮部みゆき「理由」

こんばんは。PisMaです。

今回は「理由」最終話です。3話まとめてご紹介しようと思いますのでよろしくお願いします。

読んだのは
19章「信子」
20章「逃亡者」
21章「出頭」。

19章「信子」は、冒頭で登場した片倉ハウスの続きから始まります。
おさらいをしますと、簡易宿泊施設「片倉ハウス」の長女・片倉信子が片倉ハウスに石田直澄が居ることに気づき、交番まで知らせに行くのが冒頭の描写となっていました。

19章は信子が気づく少し前、片倉ハウスに訪れたときの石田直澄の描写から始まります。
信子が朝食を持って石田直澄の近くを通っ
た際、「ああ、みそ汁だ」としみじみ呟きます。みそ汁の匂いを久々に嗅ぐ。これがなんとも、普通でいていいと言われたかのような、人である事を許されたかのような響きを持っていて印象的でした。
程なくして信子は石田直澄を「荒川の四人殺しの重要参考人」として認知します。この時点で石田直澄は凶悪殺人犯の可能性も捨てきれなかったため、万が一の身の危険に備えるためにも信子はビニール傘を構え、父と共に石田直澄の元へと向かいます。
石田直澄は布団に入ったまま出てこれないほど衰弱していました。二人に「貴方は石田直澄か」と聞かれても素直に認め、逃げもせずその場にじっとしています。石田直澄は、「ここに電話をかけて欲しい」と一つだけ信子に頼みます。

それは宝井綾子宛ての電話番号でした。

半信半疑ながらも、信子は言われたとおり渡された電話番号に連絡をとります。

幼さを残す女性の対応する声、遠くで子供が泣く音。次に電話口に出た男の子の声は「石田さんと話させてほしい」とお願いしますが、何ひとつ信用できていない信子は電話を切ってしまいます。なにか複雑な事情があると察した信子の父・義文は、一度すべて内情を耳を傾けることにしたのです。

そして石田から電話をかけ連絡し、宝井綾子は出頭する運びとなりました。

20章「逃亡者」では、なんと石田直澄のインタビューが行われます。事件の当初から時間が経ち、落ち着いて全て話せるようになった石田直澄の口から語られる全て。
逃げるのを完全にやめようと思ったのは、意外にも信子が石田直澄にビニール傘を構え対峙してきたときでした。「こんな子にまで人殺しだと思われたくない」という気持ちが働き、やめようと決心がついたそうです。
綾子さんを庇うため、全ての罪を被りホームレス生活をしながら過ごしていたこと。息子と大喧嘩をしてしまい家庭に居る場所もなく、帰る場所もない。今まで綴ってきた石田直澄の経緯から、優しさと不器用さ故にこの逃亡を決めたのだと分かりました。


そして何より恐ろしかったのは、「怪物」の話。

ウェストタワー二〇二五号室には幽霊が出る。
そんな噂が立ち始めていました。

出ると噂なのは八代祐司の霊。
まとまったお金のため家族ごっこを敷いてくる砂川一家を全員皆殺しにし、彼女や子供に目もくれず、自身のことのみ考え、家族の温かさを知ろうともしないまま命が終わった人。
その薄情さが、不気味さが、彼を幽霊にしているようでした。

家族に対し、家のお手伝いさんや給料を持ってくる人と思うような子供がこの現代どれくらいいるでしょうか。
小糸孝弘の「僕もおばさんたちを殺したんだろうか」という問いに答えられるようになり、人の繋がりの希薄さ、家族の在り方が変わり八代祐司の在り方を赦したとき。彼はやっと成仏することができる。
数多に在る家族、そして人との繋がりについて常に問い続ける作品となっていました。

やはり印象に残るのは八代祐司の在り方について。誰にでもいる家族という存在に極限まで愛されず、そして愛さずにいる。「親ガチャ」という概念まである現代において、酷い貧乏くじを引いたような人だったのだと感じました。

家族に対する愛情やひとつのコミュニティとしての希薄さは年々増す一方、擬似親子のような関係を賛美する傾向もあるように感じています。
以上を踏まえた私の一感想としては、血の繋がりよりも心の繋がりが強ければ家族にはなれるのではないでしょうか。
顔立ちの違いや生い立ちの違い、気質の違いで許せる・許せない部分というのはままあることかと思います。しかしそれは家族であろうがそうでなかろうがぶつかる問題で、そこに血はだんだん関係なくなってきていると思います。まだまだ未発達の我々ですが、もっと自由に色んな家族を愛せるようになるといいですね。

長くなりましたが、これにて「理由」のレビューは終了です。お疲れ様でした。

1ヶ月かかってしまいましたが、無事あとがきにたどり着くことができて良かったです。次のレビューはサクッと読める本を選書したいと思うので、どうぞお待ちください。

お相手は黄緑の魔女PisMaでした。
あなたの愛する家族はどんなひとですか。

おやすみなさい。



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