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いきなりステーキで喉が詰まった話

久しぶりにいきなり行った「いきなりステーキ」は初めての一人だった。いつも誰かと一緒でなければ行かない。一人で食べるにはステーキは贅沢品であるというイメージが強いのだ。焼肉もそうだ。牛に呪われそうで怖い。ようやく最近一人で回転寿司に行けるようになった。それも以前なら海苔やシャリに呪われそうで怖かったのだが。とにかく、ひとりでいる時は贅沢をしてはいけないという感覚が拭えない庶民中の庶民なのである。

しかし、「業績が悪いから来て!」という社長の懇切丁寧なお便りを店先で目にし、社長がそういうなら…という言い訳がその呪いへの一歩を誘った。「いきなりステーキこのままじゃなくなるよ!」という、半ば脅迫めいた社長の捨て身のPRは、どうやら自分には効果があったようだ。

久しぶりに食べたワイルドステーキはやはりうまかった。斜め後ろの客がやっていた、鉄板にご飯を入れて牛肉の焼き飯風にするというアレンジにも挑戦し、体験としてもなかなか楽しいランチだった。

ランチにしては1300円は結構な値段だが、ファミレスでもステーキとなるとそこそこ行くし、ここまで本格的に美味しくはないので、やっぱり安いのだろう。何事にも後悔するタイプではあるが、珍しく充足感に満たされた。

会計時、肉マイレージカード(凄いネーミングだな)を出すと「おめでとうございます。ゴールカードになりました!」という、予想だにしない展開が訪れた。人生には不意打ちが付き物である。。。とはいえ、え?なんで???

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ちなみに、3キロ以上食べるとこの栄光を掴むことができるらしい。

調べてみると、ゴールド会員へのランクアップ特典は、

ランクアップ時に1000円分のポイント(金券/割引券)がもらえる
誕生月に「USリブロース300g」のプレゼントがもらえる
来店のたびにソフトドリンクが1杯無料でもらえる


というもの。

色々と手続きがあるようだが、なかなかのお得感。これで、ひとりステーキの罪悪感がさらに減っていくことは間違いなさそうだ。誕生日に無料でステーキが食えるって…誕生したことを恨んでいる自分にとって、誕生日などただただ疎ましかったが、誕生日月がこれからの人生楽しみになるとは。いきなりステーキなくらないでくれ。

しかし、一瞬どうにもしっくりこなかった。

なぜ自分がゴールド会員になることができたのか?正直、そこまで通っていたという感覚が自分にはなかった。体感としては、本当に片手で数えるくらいだ。しかし、その戸惑いの後にふと、思い出した。

去年、母が体調を崩し入退院を繰り返してる時、どうにか母に何かを食べさせたくて、ステーキをいつもお見舞いに持って行ったのだ。母は何も食べたくないという中で、ステーキなら食べられる気がすると言っていた。シンプルだから気持ち悪くならないらしい。それでも本の数切れを口にするだけだったけど、それが嬉しくていつもいつも買って行った。結局残ったのは自分が食べてたけど。

多分、店舗で食べていたわけじゃないので、通っていた感覚がなかったのだと思う。ステーキは母と病室で食べる方が多かった。母に買って行った肉の重さが、自分の肉マイレージカードに貯まっていたのだ。そんな思考の巡りが会計時に一瞬で訪れて、ゴールドカードを手にした時、突然喉の奥が詰まった。しかし、ここで泣くわけにはいかない。ここで泣いたら確実に店員に「うわ〜この人泣くの我慢してるよ。よっぽど嬉しいんだろな…きっと普段いいことないんだろうなぁ」と、思われるに違いないのだ(半分当ってる)。そして、多分少し思われたかもしれない。

母が死んでから、もうすぐ1年が経とうとしている。悲しみも日常に忙殺され、少しずつ棚に上げられることが多くなったが、ふとその棚が崩れた時に、またあの頃と同じような切ない気持ちがズシンとのりかかかる。

それは、日常に潜んでいる様々なトリガーによって、どんなに楽しかったことも切なさに名前を変えられ、不意打ちに、そして、いきなりやってくるのだ。それが今回はステーキだった。確かに牛の呪いと言えなくもない。

たまたま「いきなり」というワードにひっかけられそうだから、ここで終わりにします。これまたいきなり終わります。しかし、この一年よく泣いたな。いいおっさんが、大丈夫か??


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