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企業研究者として新卒1年目を過ごした所感-これから企業研究者になる方へ-

記事のポイント

  • 対象:修士卒企業研究職1年目の実情を知りたい全ての方

  • 筆者は生命系の修士卒

  • 新卒で中堅製薬企業の研究職に就職

  • 入社後の失敗と反省

  • どんな人が研究職に向いている?

1. 入社まで

私は学部4年から修士課程修了まで生命系の研究室に所属し、配属から修了まで同一テーマに取り組んでいました。一般に生命系の研究は細胞や動物を使用することから一つ一つの実験に時間がかかり、まとまったデータが揃うまで早くても2~3年かかります。また多くは一人で実験を回しているため在学中に立ち上げから論文投稿まで終えることは難しく、先輩から後輩へとテーマが引き継がれるのが常です。そんな中で、私は運良く早々に仮説通りの結果を出すことができて、修士課程2年の時に筆頭著者で原著論文 (IF7程度)のacceptに至りました。学会にもいくつか参加し、年会で発表賞も受賞していました。ただ運に恵まれていただけなのに、「自分は比較的研究力が高い部類だ」と自惚れていました。しかし入社後、この自負がみるみる打ち砕かれることになります。

2. 学生時代の研究 (業績) は一旦全て忘れよう

修士課程を卒業し、中堅製薬企業の研究職として就職しました。入社後は2週間~1ヶ月の全新卒社員対象の社会人研修を受け、いよいよ会社の研究所に配属されます。研究職として働き始めると、最初の数週間は手取り足取り親切にサポートしてくれますが、しばらくするとテーマを与えられ、自分だけで実験計画を練ったり、研究発表や論文紹介なども行うようになります。そうなると、先輩方は新入社員であっても容赦無しに同列の「研究者」として扱ってきます。研究テーマや論文の内容について説明が不足していればガンガン質問されますし、理解が不足していれば詰められます。

ほとんどの新卒研究職にとって、学生時代の研究とは馴染みのない分野の研究を担当することも多々あると思われます。ここで大事なのが学生時代の業績を一旦全て忘れるということです。どんなにたくさん論文を出していても、また学会発表を行っていても、入社したら関係ありません。先輩社員から見たら、皆さん全員ひよっこ企業研究者です。私は学生時代の実績にかまけて入社後しばらくは完全に調子に乗っており、「大して頑張らなくてもそれなりにやれるだろう」と高をくくっていました。そしていざ研究発表の機会がやってきました。しかし馴染みのない分野にも関わらずろくに勉強も準備もしていない私は、当日にボコボコに詰められてしまい、質問にも上手く答えられず、そこで初めて自身の知識不足・発表力の低さ・研究職に対する認識の甘さを痛感しました。その他にも慣れない実験を一人で行って失敗したり、無計画な実験で時間を無駄にしたりと、端から見て散々な新入社員だったと思います。それもこれも、自分を過信し傲慢になっていたことが原因です。

さて、企業研究者と学生の研究で異なる点は何でしょうか。
1.会社の利益に繋がるような研究成果が求められる。
2.研究業務に対して責任が生じ、かつ一定以上のクオリティが求められる。
などがざっくり挙げられると思います。大学での研究と企業での研究は目的が根本から異なっているため、心機一転しフレッシュな気持ちで仕事することが重要です。
もちろん最初の内はつまづくこともありますが、お金を貰って研究している以上、それなりに早い段階で高いレベルが求められます。謙虚な姿勢で一から勉強し、少しずつでも研究力を上げていこうという心構えが大事だと思います(私みたいなことにならないように…)。

3. 企業研究職ってどんな人達の集まり?

「企業研究者」というのは非常に夢のある仕事である一方で、競争が激しく、コンスタントに研究成果が求められるストレスフルな職場でもあります。研究以外にも言えることかもしれませんが、一定以上の成果を出そうと思ったら定時時間内での仕事ではほぼ100%不可能です。つまり日々の長時間残業や、帰宅後の勉強・調べ物を行うのが当たり前の、ある意味根性論がまかり通ってしまうような特殊な職種です。では、研究職にはキツい労働環境に耐えられるようなタフで我慢強い人が向いているのでしょうか。恐らく違います。

長く働いている先輩方を見ていると、なんとなく研究職に求められる資質が分かります。一般的に研究職は業務の専門性ゆえに、一度別の職種になると再度研究職に戻ることはありませんし、別部署から異動してくることも稀です。例えば研究職から人事課に異動することはありますが、人事課の人がいきなり研究職に転向することはありません。つまり、研究所でずっと働いている人達は今まで他の部門へ移動すること無く長い間研究力で勝負してきた人達と言うことです。

さて、そんな先輩方に共通するのが「研究大好きニンゲン」ということです。研究というのは一般的に成果が出るまでに長い期間と多大なるお金(それと不屈の精神)を要する一方で、企業の研究部門では一定期間内にまとまった成果を出すことが要求されます。一見矛盾しているようですが会社の存続が懸かっているため、高いプレッシャー・ハードルの中でこれをクリアする人達が研究者として競争に生き残るわけです。

では研究職の人達は非常にピリつきながら仕事しているのか?と言われると、必ずしもそうではありません。開発プロジェクトの時期にもよりますが、基本的にはみなさん忙しいながらも温和で好奇心に溢れ、最新の研究内容などに目を輝かせています。一日中実験詰めで帰りが遅くなることもありますし、昼間出来なかった書類仕事で残業することもあります。帰宅後に資料整理や調べ物に追われることもあります。しかし、客観的に見ると恵まれた労働環境ではないものの(?)、研究職の方はとても楽しみながら仕事しているような雰囲気を受けます(それを「やりがい搾取」と言われるとそれまでですが…)。「好きこそ物の上手なれ」とは良く言いますね。

みなさんは「研究大好きニンゲン」でしょうか。気になる実験のためなら残業もいとわないでしょうか。単なる好奇心で帰宅後も土日も関係なく最新の文献調査や専門の勉強を継続するタイプでしょうか。
私は残念ながらそこまでストイックではありませんが、研究自体は面白いし好きなので、優秀な諸先輩方に近づけるよう邁進していく日々です。

4. 最後に

ここまで閲覧いただきありがとうございます。自分自身駆け出しの研究者ですし、まだまだ未熟な部分ばかりなので偉そうなことは言えませんが、これから就職して企業研究者になる方や、研究職に興味を持っている方の参考になればと思って綴りました。研究職は就活においても入社後においても競争が激しく、また上手くいかないことばかりの仕事ではありますが、非常にやりがいがありますし、最新の知識に常に触れ続けることが出来る非常の楽しい・ワクワクする仕事でもあります。拙い文章でありきたりなことばかり書いてしまったような気がしますが、これを見て企業研究者に興味を持つ人の一助になれば嬉しいです。もし他にも気になることがあれば気軽にコメントください。


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