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「平凡な日々。」/ショートストーリー

朝5時半。目覚ましが鳴る前に。
起こしてくれるお迎えの家のワンコ。
それが仕事なのだと思っているのかもしれない。

ご近所から苦情のこない絶妙な数十秒で遠吠えをする。
きっと私だけではないだろう。
ワンコの遠吠えが目覚ましかわりになっている住人は。

天気は快晴。心地よい風が二階の窓をとおり抜けていく。
今日も洗濯日和だ。
通学時間をようする私立の学校に行くために、子供は7時には家をでていく。
「行ってきます。」
「行ってらっしゃい。」

わたしと子供は早い時間に慣れてしまって、後にはいつの間にかたいらげて綺麗な食器と声だけが残る。
夫は長い出張中。
ゆっくりと私が朝食をとる時間だ。

食器を片づけたら、いつものように掃除洗濯。
私が趣味の読書は午後2時から1時間と決めている。
そのあとに、夕食の支度をしても学校から塾に通っている子供の帰宅には間に合う。

お向かいのご主人はIT関係の会社だから、ずっと家でお仕事。
その様子がいつも二階の窓から観察できる。
毎日、律儀にパソコンに向かっている。

わたしだって毎日。
判を押したような平凡な日々。
だけど。
わたしが望んでいた生活だ。
ドラマや小説の中にある刺激的なことは決しておきない安定と平穏の日々。

でも。
何故なんだろう。
この感覚は。

なんだか。
これではいけないような。

ああ。
きっと、読んだミステリー小説の影響なのかも。
それとも。
ネットの安定ばかりではいけないと書かれていた記事のせい?

たしかに。
変化は必要だと思う。わたしは変化を怖れているのかしら。
わたしはジェットコースターのような日々は味わいたいとは思わないから。
こういう日々に満足している。

冷蔵庫を開ける。
足りないものは買わなくてはいけない。
どうやら、買わなくてはいけないものはないので安心する。

えっ。
わたし。最近いつ外出したか?
どうしても思い出せない。いつだったかしら。
そういえば今日は何日の何曜日?
夫はいつ出張から帰って来るの?
あとで確かめなくては。

そして。

明日は用事がなくても思い切って出かけよう。
そう。それが良い。
あんまり刺激がなさ過ぎてボケてしまわないためにも。

いつの間にか子供は部屋で寝ている。
わたしも寝なくては。

朝5時半。目覚ましが鳴る前に。
起こしてくれるお迎えの家のワンコ。
天気は快晴。心地よい風が二階の窓をとおり抜けていく。
今日も洗濯日和だ。
通学時間をようする私立の学校に行くために、子供は7時には家をでていく。
「行ってきます。」
「行ってらっしゃい。」

あら。
なんだか今日しなくてはいけないことがあったような気がするのに。
なんだったかしら。
とても大切なことだったはずなのに。

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