「新しい希望。」/ショートストーリー
「まだ重量オーバーです。」
「もうほとんど捨てたわ。これ以上なんて。」
「申し訳ございません。」
そういうとスタッフは測定値を私に見せた。
「このままではご搭乗にはなれません。」
考えている時間はあまりない。最終機の出発時間が迫っている。重量を軽くするにはどうすれば良いのかと私は考えをめぐらす。両親と兄夫婦は無事に前の便に乗った。あとは私だけなのだ。
「そちらを置いて行かれてはいかがでしょうか。」
そういうとスタッフは胸に抱いているみおを指さす。なんてことをいうのだと一瞬怒りがこみあげてきたけれど、考えてみればスタッフたちは人間と変わらない外見をしているものの機械なのだから仕方がない。
それにしても、みおを手放すなんてできない。私とみおは特別な関係なのだもの。だが、みおはスタッフの言葉を理解したかのように私の胸から飛び出した。しっぽをピンとたてて優雅なあしどりで人ごみに紛れていく。私は慌てて後を追いかけた。
地球に帰れなくてもいいわ。みおさえいてくれれば。そう。みおさえいてくれたら、なんの不満もないわ。
自ら希望して残るひともそうでないひとも最終機を見ようと集まっている。中には無理やりに割り込もうとしているひともいる。そういう人たちの不満のこもった声や悲しいお別れの挨拶でごったかえす搭乗手続きゲートから静かに離れた。
私はみおに追いつくと胸に抱きしめた。みおはゴロゴロと喉を鳴らせてご機嫌だ。おうちに帰りましょう。たとえ、故郷から迎えがこなくてもね。ここには新しい希望というものがあるはずよ。
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