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「指。」/ショートストーリー

「おい。今日の客は大丈夫だろな。」

「へい。兄貴。いわゆるカモばっかりでさあ。」

「お前はうっかりやっちまうバカだからな。念には念をおさえないとな。この俺様がとばっちりをくうんだよ。」

「すみません。で、兄貴。今日は何をするですか。」

「今日は、ポーカーとかいう西洋のお遊びさ。」

「で、何賭けさせるです。」

「賭けさせるものはいつもとあまり変わらねえよ。今回はパーツからっていうのが上からのお達しだぜ。」


いったい、俺はいつの間にこんなところへいるのか皆目見当もつかない。なぜか大好きなポーカーをしている最中なのだ。今は絶好調のようだ。チップが山のようになっている。

いつも最初はいい。ひとりで大勝ちするのだ。だが勝っている時点でやめたためしがない。もっともっとと欲がでてしまい最後にはすっからかんだ。そのおかげでいい歳をして、いまだに普通の仕事にありつけない。

ところで、チップがどうも普通じゃない。しげしげと見ると思わず声に出しそうになった。指なのだ。人間の手とか足とかの。どうみても、本物だ。気持ち悪くなりそうだった。隣のひとの手を見ると左の指が2本しかない。驚いてほかのひとの手も見るとみんな足りない。もしかしたら、足もなのかとゾッとする。まさかと自分の手を確認してみる。大丈夫だ。勝っているせいか、自分の指はちゃんとついている。

うん、しかし。まさかこんなことが現実にあるわけないな。俺は夢を見ているのだ。夢に違いない。次の仕事の合間にいつの間にか寝てしまったのだろう。夢の中でも、ポーカーをしているなんてやはり俺はギャンブル中毒ってヤツだな。

だんだんと時間がたつにつれ、いつものパターンに陥る。山のようにあった指がなくなってきている。夢とはいえやばい感じがする。自分の指は死守したい。借金はどうにか返せるがなくした指は戻らない。夢でも焦るものなのだな。

「お客さん。とうとう手の指10本なくなりましたね。」

と胴元らしき男が言ってきた。

「すまんけど。俺、今日はこれで帰らせてもらいます。」

「本当にいいんですかい。まだ、足の指がありますよ。それになんだったら命とか賭けてもらったら一発逆転もありますよ。」

「いやあ。結構。」

とそこで目が覚めた。ああ。やはり夢だ。俺の指はちゃんとついている。

「出番ですよ。早くしてください。お金払っているんですからね。」


「おい。この指なんだか変だぞ。」

テーブルに積まれたチップの指を数えていた男が弟分に言った。

「お前ってやつは、またドジを踏んだな。相手のことはよく確認しろってあれほど言っただろ。」

「すみません。欲張り野郎のポーカー好きときたもんで、うまくいきゃ命も賭けるかと思っていたんですけど。」

異形のものたちが積まれた指の前でため息をついている頃、俺はいつものように手品をはじめようとした。寄席の前座なので、誰もまともに見ちゃいなが仕方ない。そして気が付いた。手品つかう小道具の偽物の指がなくなっているのだ。

あれは夢じゃなかったのか。






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