旧校舎に子供たちの歓声が再び~ロボット運動会@鬼土間~
山あいの学校の校庭をロボットが走り抜ける、そんな光景が長野市、それも山深い地域である鬼無里(きなさ)で繰り広げられました。
今回は、令和2年9月13日に行われた「ロボット運動会」と、その前日に行われたワーケーション体験のレポートをお届けします。
中学校の旧校舎を活用したワークスペース、鬼土間
ロボット運動会の会場となったのは、長野市鬼無里(きなさ)にあるワークスペース「鬼土間」。会議やイベント会場としても利用できる交流スペースや、サテライトオフィスを持つ施設となっており、鬼無里地区の中の人と外の人をつなぐ場としての役割が期待されています。
鬼土間の建物は、元々は旧鬼無里中学校の校舎でした。平成26年の神城断層地震の影響で一部校舎が使用できなくなったことを機に中学校が移転。使い手のいなくなった旧校舎のうち、比較的新しく地震の影響を受けなかった建物を活用し、鬼土間が誕生しました。
その鬼土間でサテライトオフィスを構えるのが、NICOLLAP会員の株式会社イーエムアイ・ラボ(以下、Emi lab)です。こちらのスペースを利用し、無人ロボットの研究・開発などを行っています。
”鬼の無い里”でワーケーション体験
初日の9月12日(土)には、Emi labとシソーラス株式会社のメンバーを中心に、鬼土間でワーケーション体験を行いました。当日のスケジュールは下記の通り。
9/12(土)ワーケーション体験
・ロボット操作体験@鬼土間校庭
・鬼土間周辺の散策(大龍寺跡・鬼無里神社など)
・松巖寺での座禅体験と経蔵見学
はじめに、鬼無里のまちや鬼土間のこと、当日のスケジュールについて説明があったのち、早速ロボットに乗り込みます。
操作方法はとてもシンプル。右手にある黒いレバーを、自分が動きたい方向に倒すだけで進むことができます。誰でも気軽に動かせることができるため、高齢者や障害のある方の移動手段や、農業分野や観光地での活用も期待されています。
まずは校庭を使っての運転体験。皆さん最初は慣れない様子でしたが、だんだんとコツを掴んできて楽しそうな様子。
「思ったよりスピードが出る!」「操作が簡単!」との声が上がっていました。
ある程度慣れてきたら、今度は町中を散策します。
路面の凹凸や坂の傾斜に悪戦苦闘しながらも、交代で進んでいきます。
途中には鬼無里神社などのスポットに立ち寄りつつ、鬼無里の地形の成り立ちや町の現状についても説明を受けました。
鬼無里は冬場の豪雪や付近を通る断層の影響もあって、自然災害に悩まされてきた土地です。また高齢化が進み商店も少ないことから、住民の身近な移動手段としてもロボットが活用されていくことが期待されているようです。
30分ほど散策をし、松巖寺へ。
こちらでは、座禅体験と経蔵見学を行いました。
座り方や手の組み方、体の向きなどの作法の説明を受け、約30分間座禅を組みました。無音の空間には緊張感が漂います。
住職さんからは、日々の忙しい生活の中で少しでもそこから離れる時間を持つことの大切さを説かれました。仕事に少し行き詰まったら座禅を組んで気分を落ち着かせる。鬼無里でのワーケーションでは、そういった生活も実践できるかもしれません。
その後、地元の方々との懇親会の場が設けられ、初日のプログラムは終了。
コントローラーを手に、熱くなる子供たち
いよいよロボット運動会当日の9月13日(日)。
生憎の雨模様となりましたが、50人近くの親子連れが参加しました。鬼無里の子供たちに加えて、長野市内の他の地区からも参加があり、鬼土間の中もとてもにぎやか。まるで学校が復活したかのようです。
子供たちは赤組・白組にそれぞれ分かれて、3つの種目が行われました。
9/13(日) ロボット運動会
・パン食い競走
・草刈り機体験
・障害物競走
(並行して)宝探しゲーム
最初はパン食い競走。
ロボットを操作し、途中においてあるお菓子を取って戻ってくるというコース。これをチームでリレーしていきます。
初めて操作するロボットに子供たちは少し戸惑いながらも、順調にお菓子をゲットしていきます。その表情は真剣そのもの。中には他の子にロボットに操作を”指示出し”する子も現れ、雨が降る中ではありましたが、大いに盛り上がりました。
続いては草刈り対決。
雨が強くなってきたため、建物内から草刈りロボットを操作する形式になりました。赤組と白組がそれぞれ決められた場所でロボットを走らせ、どちらが綺麗に草を刈れるかを対決。
ラジコンのように草刈り機を操作できるとあって、子供たちは興味津々。真剣な表情で草刈り機を動かしていきます。
中にはコントローラーを動かすことにハマって、時間が終わっても「もっとやりたい!!」という子もちらほら。こうした子供たちが、将来の長野のIT業界を担うような存在になってくれると良いですね。
一方鬼土間の中では運動会の種目とは別に、ロボットを使った宝探しが行われていました。
カメラを搭載したロボットを隣の部屋から遠隔操作して、隠されているお宝を探します。
普段できない体験に、参加した子供たちは大興奮。
モニターをじっと見つめてロボット操作に熱中する子、ロボットのカメラの前に立って指示をする子…ロボットが一つあるだけで、子供たちの間に自然と役割が生まれていきます。お宝が見つかったらみんなで喜び、その一体感から普段別の学校に通う子供たちであることを忘れてしまいそうでした。
3つめの種目は、障害物競走。雨が少し弱まったため、再び外で競技を行います。
障害物を避けながら決められたコースを一周し、リレーします。
パン食い競走・草刈り対決の2種目はいずれも白組の勝ち。これが最後の種目のため、両チームとも勝ちを狙い、ヒートアップしていきます。
特にここまで”連敗”を喫していた赤組の子供たちは必死そのもの。「がんばれー!」「そこは右に曲がって!」「早くバトンタッチして!!」と真剣に子供たちが声を上げる様子は、普通の運動会と一緒でした。
あまりの必死さに、ロボットについていた(赤組・白組を見分けるための)風船も取れてしまい、コースアウトしたロボットを追いかける大人たちも一苦労。最終種目にふさわしい盛り上がりとなりました。皆さんお疲れ様でした。
3種目とも白組の勝利で、ロボット運動会は幕を閉じました。
個人的には「ロボット運動会」と聞いて、最初はどんなイベントになるのか正直不思議なところもありました。しかし、目の前を走るのが人間かロボットかに関係なく子供たちが熱くなる様子を見て、子供たちにとっても非常に貴重な経験となったのではないかと感じています。
鬼無里地区も他の中山間地域と同様に、人口減少や高齢化に悩まされており、地域に小学生は20数名しかいません。そんな地域だからこそ、子供たちの歓声が聞こえるこのようなイベントの開催が、大きな価値を持っていくことでしょう。