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きみの臓器を動かしたい、動かし続けたい - 『Life is not Auto』が動かなくなるとき

まえがき

本稿は、『Life is not Auto』(以下、LINA)をプレイした感想を記したものです。リリースされたばかりの小規模作品ということもあり、未プレイの方に向けて内容の紹介も行います。LINAはネタバレを知ったところで大きく価値を損なう作品ではありませんが、以下の記述ではエンディングについて触れます。ただし、その際は注意書きをするため、ネタバレを避けたい方はその時点で読むのをやめてプレイしていただければと思います。

きみの臓器を動かしたい

本編

原始、音ゲーとは演奏シミュレーターでした。BGMに合わせて流れる譜面のタイミングに合わせてボタンを押し、アサインされたSEが鳴り曲が完成する、その気持ちよさが音ゲーの喜びでした。その後、リズムに焦点を置き、音楽の構成要素のうちリズムに乗る気持ちよさに特化した作品が生まれていきました。また、演奏シミュレーターだった音ゲーにとって楽器を模したコントローラーは切り離せない存在ですが、タッチパネルというインターフェースは、楽器から音ゲーを解放しました。演奏という行為に縛られず、音楽それ自体を楽しむという方向性が生まれていきました。

LINAに楽器は存在せず、また音楽を楽しむという要素もあまりありません。では、なぜリズムに合わせてボタンを押すのでしょうか。なにが楽しいのでしょうか。キーアサインされた7つの臓器を正確に動かし続けないと、主人公である少女リナが死んでしまうからです。リナを生かし続けるために、プレイヤーはタイミングよくボタンを押すのです。心臓の鼓動に乗って、肺の伸縮に合わせて、外部の刺激に反応して。失敗するとリナは対応する臓器に合わせた疾患を病み、やがて死にます。

また、LINAのユニークさとして、ストレス、乾き、飢えのリソース管理要素があります。画面左から右に自動で進んでいくリナの人生に合わせ、様々な悩み、食事、嗜好品といったイベントが流れてきます。たとえばタバコであれば肺といったように、対応した臓器でタイミングよく反応することでリソースが様々に変動します。タバコであればストレスが減るものの肺の状態が悪化する、といったように。これらのリソースが枯渇すると対応した死因によって死に至りますが、飢えに関しては満たしすぎても糖尿病によって死を迎えるため、安直に食事を食べ続ければいいというものでもありません。こうした判断を臓器の平常活動という音ゲーをプレイしながら並行する難しさはありますが、音ゲー部分がそもそも難しくなく、難易度をイージーにすればイベント要素をスキップ可能です。一応、著者はノーマルでクリアしました。

次に、LINAは全4ステージ制ですが、ステージ間で上記のリソースとは別に、引き継がれる要素があります。病気と、お金です。LINAは少女リナの一生を追う人生シミュレーターであり、ステージを進むごとにリナは年老いていきます。当然、病気が自然治癒するということはなく、ステージクリア時にお金を払うことでのみ治療が可能です。お金は良い判定を出すほど得られますが、大量の病を治しきれるほどには稼げません。それよりも、悪い判定を出さない、イベントを踏まないことで、そもそも健康状態を保つプレイが重要になります。音ゲー的には、ハイスコアよりもフルコンを狙うプレイングが求められます。

そして、LINAは病気があるかどうかでルート分岐します。一度も病気にかかることなくステージクリアし続けることで進めるAルートではリナは12歳の少女から80歳の老女まで、ライフステージに合わせたイベントを経験します。一方、ひとつでも病のある状態だと、病院でリハビリに励むBルートを進むことになります。上記した稼ぎの難しさという問題があるため、Bルートに一度入るとAルートへの復帰は不可能です。エンディングもルートごとに異なり、基本的にはAルートでのクリアを目指すように設計されています。

では、どうすればAルートにたどり着けるのか。LINAは全4ステージのうち、どこからでもやり直しができます。手前のステージからやり直し、なるべく高い健康状態を維持し、お金をためて次のステージで病を治療できるように備えるのです。LINAが人生シミュレーターであるというのは単に臓器の活動によって生命維持するということだけではなく、若い頃から生活習慣に気をつけ貯蓄するという面があるということにこの時点でプレイヤーは気付かされます。年老いるにつれて臓器のコントロールは難しくなり、死につながるイベントが増えていくため、若いうちからギリギリのプレイをしていては将来待ち受ける不幸を回避することは困難です。

LINAの音ゲーらしさとして、乱数要素が存在しない点があります。一般的な音ゲーがランダムオプションをつけない限り譜面が固定であるように、LINAもまたステージごとに臓器の活動周期やイベントは固定です。そのため、何度も繰り返し同じステージをプレイすることで上達を感じられます。もちろん、その過程でリナは何度も多種多様な死を迎えるため、文字通りの死に覚えゲーです。イベントの中には突発的な事故のように、リナの健康状態とは無関係に即死するイベントもあり、最優先で対処が必要ですが、ひとつひとつは難しい配置ではないため覚えれば問題ありません。そして年老いれば老いるほどちょっとしたことで死ぬため、即死イベントが増えていきます。こうした音ゲーとしての難易度曲線の上昇と、人生シミュレーターというコンセプトの合致もLINAの魅力です。






以下、エンディングの内容に触れます




Bルートのエンディングは、長期間に渡る病院暮らしを続けたリナが、健康なら送れたかもしれない幸福な人生を想像し、精神的にも沈みながら生きていくという暗い内容となっています。リナを生き長らえさせるために必死にプレイしてきた結末としてリナは死ぬことなく人生を送るわけですが、このエンディングを見てAルートを目指したいと思わないプレイヤーはいないでしょう。

Aルートでは就職、結婚といったライフイベントを越えてラストステージにたどり着いた60歳のリナが、散歩して暮らす穏やかな老後の風景が広がります。しかし70歳を越えた頃から不穏な空気が流れ始め、やがてリナは病院の救急病棟に入り込み、イベントは点滴や除細動器になっていき、最後には自らの遺体を囲む家族に出会い、死を迎えます。

これはプレイ中に充分に想像可能なことですが、LINAは人生シミュレーターであり、ベストなプレイを続け万難を排してリナを死から遠ざけ続けてきたプレイヤーに訪れる結末もまた、リナの死なのです。むしろ、Bルートのエンディングではリナは死ぬことはないため、天寿の全うを見届けるためにAルートを目指すのです。心電図が停止した瞬間、ゲームはグリッチ表現を起こし、リナの生命を模したUIは徐々に破綻していきます。リナの前には過去のステージがさながら走馬灯のように高速で崩壊していき、鈍い色の臓器はそれでも活動を続けますが、プレイヤーの操作に対して動けないと反応するのみです。

そしてラストにリナはプレイヤーを認識し、お礼のメッセージを述べます。表現すべき肉体を失いすべてのUIが消滅したこの瞬間、第四の壁は崩壊し、避けられない死を見届けたプレイヤーに対してささやかな、けれど最高の報酬がもたらされ、LINAは終わりを迎えます。

あとがき

きみの臓器を動かし続けたい

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