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アイデンティティよ消えないで!

 私、一体どうしちゃったんだろう? 何をしてしまったんだろう?

 深夜の路地で一人きり。街灯から落ちる丸い光の中に座り込んでいた。いつの間にか。どうして? 口の周りや服が濡れている。なんだろう?
 顔を拭おうとして持ち上げた掌に、べったりと血が付いていた。それと、布の切れ端。男物のシャツの襟。ショウタ君のシャツ。どうしてそんなものがあるのか分からない。
 急に噎せた。胃から何かが迫り上がってきた。我慢できずに吐こうとして、咳き込んで、何かが口から飛び出した。アスファルトの上に落ちた。髪の毛。眼鏡。ショウタ君がしていたスクエア型の黒縁眼鏡。なんで? どうして? 私の口から出て来るものじゃないでしょ、普通。
 私が蹲って泣いていると、痩せた白衣姿の女の人が近づいてきた。
「検体番号U-23番、気分はどうだ?」
 私は目の前の人を見上げて呆けてしまった。
「えっ? なに? 何のこと? あなた誰?」
「簡単に言うと、君を改造した技術者だ。少し前に盲腸の手術をしただろう? その時にこう、ちょちょいのちょいと弄った」
 この人、なに言ってるんだろう。
「これから君は我々と共に所謂『正義の味方』と戦ってもらう」
 この人、なに言ってるんだろう。
 私は正直に尋ねた。
「なに言ってるのか、全然わかんない、なに、えっ?」
「大丈夫、今から実戦で学んでいこう。OJTだ」
 私が言い返す前に、何かが空から猛烈なスピードで着地した。轟音と衝撃が私と技術者を襲った。「相変わらず無駄に行動が早いな」と彼女の舌打ちが聞こえる。
 土埃が晴れた。高校生くらいに見える、キラキラしたミニスカートのドレスを着た金髪の女の子が仁王立ちしていた。小さい頃見ていた「魔法少女」に似ていた。
「悪の科学者フシヤと部下のモンスター! 貴方達の思い通りにはさせないわ!」
 なんで、私が「部下のモンスター」になってるんだろう。意味が分からなくて泣きたくなった。



つづく(799字)

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