特別な関係だった
「はい、これ」と差し出されたのは私が好きなキャラクターのストラップ。
朝、教室の机の上にあるのは私が貸してほしかった小説。
夜中に来るのは「宿題の範囲、どこだっけ」というメール。
全ては、彼からだった。
そういう関係ではなかった。親の仲が良いという理由をつけて友達の質問を避けていた。お互い本が好きでおすすめを貸しあったり、テスト前にはわからないところを教えあったりした。どんなことを話していたのか覚えていないほどどうでもいいことを、わざわざメールで何通も送りあった。どうしてこんなに気が合うのか考えたけどよくわからなかった。
高校に進学してから、メールでのやりとりも本の貸し借りもなくなった。一度だけ電車で再会したとき、のどが渇いたと言うのでまだ口をつけていないペットボトルの水をあげた。なぜか彼の隣にいた女の子が私に「ありがとう」と言ってきた。あんたにあげたわけじゃないんだけどな、と思った。
好きだったのかもしれないし、好きじゃなかったのかもしれない。あっちが私のことをどう思っていたかなんて誰にも聞いたことがなかったし、私のなかでは私たちは「友達」だった。彼に彼女ができたとき、私はちゃんと「おめでとう」とメールを送った。けっこう早く別れたときは「まだ中学生だから」となぐさめた。
そういう関係だったのだ。相手の好きそうなものがあってたいして高くなかったら買ってあげたり、くだらないことで盛り上がったり、こんなの読まないだろうなと思う本があればそれを渡してみたり。
「友達以上恋人未満」とか使い古された言葉とは違う種類の関係だったのだ。
そういう、特別な関係だったのだ。
ちょろい女子大生の川添理来です。