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何年か前のことなのに

高校生のときに使っていた電車に乗った。
冬と春が入り混じった、柔らかく冷たい空気。

この電車に乗るとき、私はいつも海を見ていた。

太陽で眩しくなる海も、重い雲が覆う海も、甘そうで苦そうなオレンジ色の海も、雨と風で不安になる海も、私はその横を通って学校に通った。

もう制服は着ていないし、あの大きいリュックは背負っていない。

たった何年か前のことなのに。

私は何度もこの電車に乗った。

あの頃の私はまだ幼かった。
たった6つの駅をとても長い時間に感じていた。物思いにふけったり、ひと眠りして過ごしたり、テスト前にはノートをめくって時間を潰した。
やることがたくさんあって、やりたいこともたくさんあった。

私の複雑な感情と、単純な答え。

こんなことで悩んでいた、ああやって落ち込んでいた、と振り返る。

全く難しくなかったことを必死に考えていた私がいて、そんな自分が電車で淡い姿として現れる。

駅に着いて息を吸うと相変わらずの味気ない空気が漂っていた。
待合室にはベンチがあって洗われたことがなさそうな座布団が置かれている。外には何年間も放置されたままの自転車。

ここで安いアイスを食べて、友達と待ち合わせをして、目の前で電車を逃した。母に「やっぱり今日帰るの遅くなる」と電話して、怒られた。今はもうしないけれど、あの頃はこんなことがしょっちゅうだった。

たった何年か前のことなのに。

今日の海も静かで寝ているように見える。

少ない乗客を乗せて、眠たい空気を混ぜて、電車は走る。

3年前の私と、今の私を乗せて、電車はゆっくりと進む。

ちょろい女子大生の川添理来です。