盆準備

今年も季節は丁寧に巡ってきて
ぼくは今年も盆の準備をしている
あれから早くも十七年が過ぎて
不惑を過ぎても変わらずまごまごとし
加えて体重は10キロ程増量して
それでも狂いなく供養の日がくる

喪失の原風景はいつもそこにある
後悔と贖罪の漣が押し寄せる海辺に
寄る辺なく佇んで思索に耽る
そういえばあの日も同じような
晴れた日だったね
リノリウムが鈍く光っていた部屋

かなしみの昼下がり
あたたかくて雲ひとつない空の下
ぼくは君を抱きしめておやすみを告げた
そしてぼくが腕を離したとき
医師は感情を出さないように言った
「11月19日午後1時36分…」

遠くに見える人の波は
野辺送りの歩み
鈴の音が響いて
きつく目を閉じた
神などいないと知りながら
読経を聞く矛盾

彼岸の君は変わらないままなのか
それとも塩梅よく老いてきているのか
どちらにしてもぼくはこのとおりだ
慟哭の記憶は折りたたまれポケットの中
線香代わりの煙草をもう一本
呆けたように深く紫煙を吸って


(2023.8.17.3:23)

この記事が参加している募集

#忘れられない恋物語

9,144件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?