読書録:アンチ整理術(森博嗣)

世の中、物を整理整頓することが正しいことで、整理整頓できるべきである、のような考え方が一般的ではないでしょうか。断捨離やミニマリストと言う言葉が流行しているのもそんな背景があるように思います。

かく言う僕もそのタイプで、整理整頓はしたいけど上手いことできずダメだなぁなんて感じたりしていますし、ミニマリストに対し憧れもあります。

一方、著者の森博嗣さんの場合は書斎も工作室も研究室も全て物で溢れ凄く散らかっているのですが、整理整頓の必要性は感じていないそうです。

断捨離についても、不要だと断言できるものは捨てれば良いが、自分で買った多くのものは将来役に立つかもしれないから捨てない、と。

更には、終活に向けての身辺整理も「そんなもの楽しいか?」と懐疑的で、残された家族が処分するだけのお金を残し、あとは残された側が自由にすれば良い、と言うスタンス。

このように、徹底して「物の整理整頓は必要性がない」と言う価値観を貫いています。

その背景には、森博嗣さんの仕事が創作活動だというのがあり、創作する上では全てのものがアイデアの元になるし、整理整頓は気持ち良いが、それをする時間があるなら創作活動に当てたい、と言う創作家らしい価値観があります。

そして、単に物の整理整頓の不必要なことを説くだけではなく、そうした「物」の整理整頓ではなく、自分の「思考」や「生き方」、そして「人間関係」などを整理整頓しよう、と言う点が本書の主題となっています。

物の整理整頓が不要と言う点にしても、単に現代の整理整頓ブームに反対しているのではなく、「なぜ整理整頓が正しいように感じるのか」「どういう環境では整理整頓が必要か」「何故自分にとって不要なのか」という点がロジカルに書かれており、そこには読者に対して「これが正しい」という説得は一切なく、「自分にとって整理整頓はどんな価値があるのか」を考えるきっかけを与えてくれるし、そうした「自分で考え続けることの大切さ(思考の整理整頓)」がメッセージになっています。

そんな本書は以下の目次で構成されています。

第一章 整理・整頓は何故必要か
第二章 環境が作業性に与える影響
第三章 思考に必要な整理
第四章 人間関係に必要な整理
第五章 自分自身の整理・整頓
第六章 本書の編集者との問答
第七章 創作における整理術
第八章 整理が必要な環境とは

全章通して「整理整頓」についての筆者の考えが横断的に述べられているのですが、第七章の「本書の編集者との問答」も個人的にとても参考になりました。

この第七章は、本書を執筆するにあたって編集者とメールでやりとりした文言がほぼコピペで書かれているのですが、全体的にこの編集者の方の悩み相談のような形で、例えば「地頭力って何?」「仕事に必要な知力とは?」「仕事ができないのは、何が問題?」と言うような質問に森博嗣さんが淡々と回答していきます。

そうした問いに対して、例えば

努力だろうが、知力だろうが、あるいは運だろうが、なんだって良いのです。ようは結果が出るかどうかです。世の中は非情ですからね。僕が見てきた範囲では、結果が出せれば、知力があった、努力した、などと評価されるだけです。知力や努力があれば、必ず結果が出せるわけではない、ということは、たぶん現実でしょう。とりあえずいえることは、手法なんかどうだって良い、ということです。どんな方法が最適かと考えるまえに、結果を出すことを考えましょう
    "アンチ整理術"より引用

のようなハッとする言葉があったり、最終的にはこの編集者に対して

どうも、これまでの話を聞いていると、貴方は、考えることが苦手なのでしょうね。だから、効率の良い方法を求めてしまう。計算はするから、数字と式を教えて欲しい、とおっしゃっているのです。
    "アンチ整理術"より引用

と超直球で答えていて、これもまた自分にもグサッときたりと、タメになる言葉が沢山ありました。

自分自身で考え続けることによって思考が整理整頓されていくのですね。

最後に、「自分自身を整理・整頓する」と言う文脈でさらに引用させていただきます。

自分自身を整理・整頓するとは、簡単にいえば、自分が生きるうえで、「一番大事なことは何か?」あるいは、「目指しているものの本質は何か?」を考えることだろう。それを考え尽くせば、余分なものが自然に排除され、頭はすっきりするし、行動も洗練されるように思う。
    "アンチ整理術"より引用

うーん、とても良い言葉。

整理・整頓を通じて自分の生き方も考えられる良書でした。


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